078 タリア
徐行レベルに速度を落とした装甲車で、木の塀に囲まれた領域へと近づく。
そこから縁に沿ってしばらく進んでいくと……。
木製の比較的大きな門と、門番らしき存在の姿が見えてきた。
当然と言うべきか、秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアに比べると随分貧相だ。
門番の方も、木と皮を組み合わせたような鎧だけで正直なところ頼りない。
彼は装甲車の存在に気づくと、ある程度距離が詰まったところで近寄ってきた。
オネットが停車させ、窓を開ける。
「この街に何の用だ」
「管理者の依頼で来たのですが……」
「……そうか。ならば、更に進んで裏門の方から街に入ってくれ」
「ええと……分かりました」
そうしなければならない理由は不明だが、駐車場がそちらにでもあるのだろう。
マグは一先ずそう判断し、アテラに視線をやってオネットに操作を促した。
表門らしき場所の門番再び緩やかに装甲車が走り出す。
「……一応、ここって砂漠のど真ん中なんだよな? 随分涼しかったけど」
窓から入ってきた風は何とも心地よかった。
実際に装甲車の外気温の表示もいい塩梅になっている。
ついさっきまで砂漠にいたことが嘘のようだ。
「そのようです。別の気候帯に入った訳でもなく、広大な砂漠の中におおよそ直径二十キロメートル程度の緑化された土地が存在するようです」
地図アプリの表示が正しければ、そういうことになるらしい。
街はその中の一定の領域か。
そこだけを切り取ればオアシス都市と言えなくもない。
「けど、あれ。針葉樹よね」
「……何かしらの出土品の力でしょうか」
比較的寒い土地に生える木の姿すらあり、実際気温も低め。
やはり異常な空間に思える。
となれば、フィアが首を傾げつつ疑問気味に口にした推測が正しそうだが……。
実態は街の管理者に聞いた方がいいかもしれない。
「とにもかくにも中に入るデス」
言いながら、オネットは装甲車を少しだけ加速させた。
やがて再び門番と、今度は随分とこじんまりした扉が見えてきた。
これが裏門なのだろう。
少し豪華な皮と木の鎧を纏った門番が近づいてくる。
「車はそこにとめろ。それと、街の中では超越現象や出土品を許可なく使用することは禁止されている。ご注意するように」
「……出土品使用の定義は?」
半ば出土品であるアテラが、完全に出土品として回収されていたフィアとドリィに一瞬目を向けてから尋ねる。
門番は三人を一瞥してから再び口を開いた。
「機人については活動に関わるものであれば許される。他のものについては原則禁止だ。詳細はタリア様に聞いてくれ」
であれば、アテラ達は問題なさそうだ。
少し安心する。
「分かりました」
素直にそう応じて装甲車を降り、門番が開けた門から中に入る。
塀の内側は更に別の塀で区切られた小さな空間になっており、そこそこ大きな神殿のような建物に繋がる扉のみが見て取れた。
入ってきた者の姿を街の住民に見せないようにしているようだ。
「余所者との接触を避けたいのか?」
「排他的な街なのでしょうか……」
ともあれ、まずは街の管理者と会って話を聞かなければならない。
一つしかない扉に近づき、それを開けて木製の屋敷の中に入る。
フローリングの綺麗な床の廊下は一本道。
少し進んでいくと比較的大きめの扉と、その前に控える女の子の姿が見えた。
年の頃は十歳程度。
古代の服のような、簡素なチュニックを着ている。
秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアとは全く以って雰囲気が違う。
その小さな少女はマグ達の姿を認めると口を開いた。
「タリア様がお待ちです」
一瞬、この子こそが街の管理者かと思ったが、どうやら違ったようだ。
扉を開けた少女に促され、その部屋に入る。
そこは拝殿のような作りになっていて、青銅鏡らしきものが祀られていた。
そして、その傍には――。
「よく来てくれた」
未開の部族のシャーマンのように派手な色彩の装飾で着飾り、異形の顔を象った仮面を被った人の形をした存在がいた。
声は少女のものだが、どことなく老女のような雰囲気がある。
「貴方が――」
「うむ。妾がこの共生の街・自然都市ティフィカの主タリアじゃ。よろしく頼む」




