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EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~  作者: 青空顎門
終章 電子仕掛けの約束

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103/128

103 清適の街へ

 ナビゲーションに加えられた次なる目的地、清適の街・医療都市ポリークの位置座標を目指し、装甲車で道なき道を舗装しながら進んでいくこと数時間。


「……何だか、また微妙に揺れてるデスね」


 後ろの席で深刻そうにオネットが呟いた。

 迷宮遺跡で発生したものに比べれば微弱だが、走行中の車内にいるにもかかわらず、確かに不可解な振動がハッキリと感じられる。

 普通の地震との感覚の違いが、どうにも気持ち悪い。


「パパ……」


 マグの膝の上に座っているククラは特にその感覚が嫌なのか、身を縮めて振り返りながら上目遣いで不安そうに呟く。

 その姿を目にして、マグは自然と眼前にある彼女の頭をあやすように撫でた。

 そうしている間に空間の揺れは収まり、やがてククラも落ち着いたようだった。

 ホッとする。

 フィアよりも雰囲気が幼いからか、過度に心配してしまっている感がある。

 そのせいもあり、気を取り直した様子で頭の感触を堪能するように体を緩やかに揺らし始めたククラに、マグは手を離すタイミングをなくしてしまった。

 そのまましばらく彼女を撫でていると。


「おとー様! フィアもして欲しいです!」


 隣のフィアが、真っ直ぐマグを見上げならストレートに要望を口にした。

 対してマグは微笑みと共に頷き、空いている方の手を彼女の頭の上に置いた。


「えへへ」


 屈託なく笑う彼女の表情には、ククラへの嫉妬のような感情は欠片もない。

 他意も何もなく、ただただ撫でて欲しかっただけなのだろう。

 実際、ククラがマグの膝に座るのを快く許している訳だから当然とも言える。

 この装甲車は自動操縦であり、ハンドルやシフトレバー等々がないため、どの列でも三人座ることができる。それが二列なので六人乗りということになる。

 今のマグ達は丁度六人。数の上ではピッタリなのだが……。

 ククラがマグから離れることを嫌がり、またマグとアテラの間が定位置のフィアを後ろに追いやるのは気が引けるということで、こういう形になっていた。


「ドリィは撫でて貰わなくていいのデスか?」

「……うーん、そうね。今度お願いしようかしら。ね? お父さん」

「あ、ああ。うん」


 オネットの問いかけに、どこか悪戯っぽい笑みを見せながら言うドリィ。

 冗談とも本心とも取れない感じだが、言葉を鵜呑みにして撫でようとしたところでガイノイドである彼女が拒絶するということはないだろう。

 今度、いいタイミングでやってみるのもいいかもしれない。

 適度なスキンシップは家族関係の中では大事だ。

 そう思いつつも、この場では感情の影響を受け易い人間として気恥ずかしさが勝り、マグは話題を変えようと改めて口を開いた。


「ええと、それはそれとして。オネット、これから向かう清適の街・医療都市ポリークについて何か知ってることはあるか?」


 二心一体だった時の感覚が抜けず、一瞬アテラに視線をやり、それから慌てて後列の彼女に体ごと顔を向ける。

 対してオネットは小さく苦笑しながら答えた。


「さっき追加で貰った情報ぐらいデスね。健康こそが人間さんの幸福という考えの下、あらゆる怪我や病から人間さんを救おうとしたのが成り立ちだそうデス」


 体の調子が悪いと普段楽しんでいるものでさえ楽しめなくなる。

 それを思えば、健康が全ての基盤にして幸福と考えるのも理解できる話だ。

 そして、その延長線上に魂を移し替える研究がある、と。


「少し排他的という話でしたが、旦那様に危険はありませんか?」

「その辺りはアテラ母様には共有したはず……いえ、何でもないデス!」


 ほんの一瞬だけディスプレイの色を赤くして軽く威圧したアテラに、オネットはすぐさま発言を撤回する。

 恐らくアテラは話の流れの中で自然と情報をマグに知らせようとしたのだろう。


「え、ええと、人間さんの健康を第一に考える街デスから危険はないデス。ただ単に、他の都市で治療できない患者以外は基本受け入れないというだけで」


 若干慌てたようにオネットが説明を始める。

 出土品(PTデバイス)で大概の傷病を治せることを考えると、現状治療目的では実質的に誰も受け入れないと言っても過言ではない状態だろうか。

 出土品(PTデバイス)が出回る以前の規則がそのままになっているのかもしれない。


「後は研究関連で向学の街・学園都市メイアとやり取りしてるぐらいデスかね」

「研究関連?」

「医療系の原炎擬装(PTRデバイス)の製作や調整で資金を得て、()()を購入してるみたいデス」

「資材……」


 何やら口調が意味ありげな感じだったため、マグは思わず繰り返した。


「まあ、その、ちょっと後ろ暗い物品らしいデスね」


 依存性のある薬物……とかではないだろう。

 それらは医療用としては正規のものであることがほとんどだ。

 しかし、オネットが言葉を濁しているところを見るに、余り深く知ろうとしない方がいいかもしれない。

 医療の進歩に関わる闇の部分が噴出してきそうだ。


「それよりオネット。そろそろ着いてもいい頃ではないですか?」


 そんな風に話をしていると、再度アテラが問う。


「ええと……あ、そうデスね。もう視認できる距離のはずデスよ」

「でも、何もないよ?」


 オネットの返答に、膝の上でククラがキョロキョロと辺りを見回しながら言う。


「そこでこれデス」


 対してオネットは、向学の街・学園都市メイアで管理者たるローフェから貰った紹介状を取り出し、自慢するように掲げた。

 紹介状と言いながら、紙ではなく金属のプレートだ。


「これを起動すると――」


 彼女がその中心部を押すと、板の表面に光のラインが走っていく。

 すると、しばらくして視界の中に変化が生じ始めた。

 そこに驚きはない。何となく懐かしく感じる現象だ。


「あ。街」

「ああ。光学迷彩か」


 空間から薄膜が取り払われるように、巨大な壁が現れていく。

 初めて秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアを訪れた時と同じだ。

 違うのは出現した壁の雰囲気。

 ファンタジーの城塞都市の城壁という感じの石造りではなく、光沢のある金属とも違う不可思議な素材でできているようだ。繋ぎ目も見当たらない。


「これが、清適の街・医療都市ポリークか」


 それを前にして、マグは口の中で小さく呟いた。

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