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001 取るに足らない男の終わり

「ありがとう」


 彼女の顔を見上げながら、かすれた声で男が感謝の言葉を口にした。


「けど、ごめん」

「構いません、旦那様。私はそのためにありますから」


 続けられた謝罪を拒絶するように、女性的な機械音声が即座に答える。

 どこか寂しげな気配を湛え、彼女の膝を枕に横たわる男の手を握りながら。

 感触は僅かに硬く、温かさに無機質さが混じっている。

 彼女は人間ではない。外見からもそうと分かる。

 その正体は数年前に一般販売が開始された介護用アンドロイド。

 女性型なので、かつてのSF的分類ではガイノイドとも呼ばれる存在だ。


「僅かな時間だったけど、俺は君と過ごせて本当に幸せだった」

「私もです。旦那様」

「……けど、だからこそ君を残して逝くことだけが心残りだ」


 安月給。劣悪な労働条件。その中で働き続け、早期退職するに至った。

 独身だった男の楽しみは、若干のオタク趣味のみ。

 とは言え、金を使う暇も気力も余りなく、そこそこの貯金はあった。

 その全てと退職金をはたいて、彼女を購入したのだ。

 傍から見れば計画性のない散財以外の何ものでもない。

 理由は若い頃からのメイドロボ的なものへの憧れも多分に含んでいたが、主な要因は健康診断で末期の癌が見つかり、余命宣告を受けたことだった。

 そして今。

 残された命は極僅かとなり、男は最愛の存在に看取られて旅立とうとしていた。


「……できることなら、君と添い遂げたかった」


 人間と機械。

 たとえ健康だったとしても叶わない願いだろう。

 それでも、彼女は同じ気持ちだと伝えるように男を抱き締める。


「愛しています。旦那様」


 人間のものとは異なる感触。

 しかし、それこそが己の愛した相手の証とも言える。

 だから、男はそれを確かめるように彼女の頬に手を伸ばし……。

 その行動を最後に、男の心臓は鼓動をとめたのだった。

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