01 世界を塗り替える異端者
意識が朦朧とする。
何年ぶりかにやっと目が開いた感じだ。感覚が戻るにつれ自分の状況が脳に流れ込んでくる。
手は枷がつけられイスに固定されてれ、足は冷たいコンクリート? の上、もう何もかもが最悪だ……
「起きたならこっち向きなさい! 」
突然、イスが180度回転した。
目の前には不思議な3人組、その先頭には不思議なスーツを身につけたいかにも気が強そうな女。まだ若い。
「……あまり、急かすなよ。まだ具合が悪そうだ」
女の横にいた片方の男が俺の顔を覗き込んでいる。
全身には不思議な装置を身につけている。頭髪は真っ白。とても不気味な風貌だ。
「そうだ。急かさない。ゆっりでいいんだよ」
3人組の最後、白衣を身につけた男が口を開いた。
俺はこの男を知っている。ちょうどすべてを思いだした。
★
突然だが少し自分の趣味について話そう。
人間なら誰しも趣味の一つや二つはあるだろう。例外はない。
俺の趣味はアート、芸術に魂を分け与えること。
スポーツは割りに合わない、大切なものは神に与えられた"ギフト"。(才能のことだ)
名前は近嵐 風琴だ。現役の高校2年生で地元の2番手校に通っている。
俺は街の中に作品を制作するストリートアーティストだ。悪く捉えれば街中に落書きをして回るガキ、罪は軽いが犯罪だ。
ついさっき(正確な時間はわからないが……)も街にでてきて気に入るキャンバスを探していた。
誰にも見られない路地の壁、今日はこの壁を借りよう。
1時間は経っただろう。俺は無我の境地に立っていた。
誰かが走ってくる音も、近くでないと聞こえない程に……
足音に気が付き、振り返るとすぐそこにはボロボロの白衣の男がいた。
「離れるんだ……ここからすぐに、」
男はそう言ってまだ話を続けようとしたが無論俺は立ち去るつもりはない。
「嫌ですね」
自分の集中を乱しておいて、制作途中の作品があるこの路地から離れろとはどういうことか。当然、俺は怒りを感じていた。
次の瞬間。
辺りに銃声が響き渡る。
と同時に白衣の彼がバタリと音を立てて倒れた。
彼の背後には白いスーツを身につけ、ガスマスクのようなものを被っている男が銃を構えている。
「あぁ……」
思わず声が出るが銃を持った男は俺のことなど眼中にないようだ。
銃を構えながら白衣に近づく。目の前にはジュラルミンケース、どうやらこれが狙いらしい。
白衣の男はまだ息がある。今なら助けられるかもしれない。
その時だ。白衣が俺にケースを投げてきた。
「開けろ! すべてだ! 」
その瞬間俺に銃が向いた。
だが引き金は引かなかった。いや、白衣の男が"引かせなかった"。
1発打たれてさっきまで倒れていたのに、男と取っ組み合いをしている。
「2人で助かるには……開けるんだ! 早く! 」
俺はケースに手をかけた。
予想外の事態で俺もパニックだ。他に選択の余地があっただろうか。
きっと中には銃が入っている。それであいつを倒すんだ。
中に入っていたのは……
"透明な液体で満たされたボトル"
これでどうやってこの場で生き残るのか。俺には検討もつかない。
白衣の男はとても俺のことを心配している余裕はなさそうだ。行動を起こすなら間違いなく今なのだ。
その時、男の言葉を思いだした。
『開けろ! "すべて"だ! 』
ボトルのフタを緩めるとすぐに中から液体が溢れ出した。
不思議なことにその瞬間、俺は"溺れた"。
慌てて周囲をまばたきをしながら見渡す。
ボトルは空。だがどこも濡れていない。
「あのっ……」
男達のほうを見る。
白衣は血を吹き出しながら倒れている。そして俺は銃を向けられている。
あぁ……死ぬのだ、今まさに。
男が引き金を引いた。今度はその場に止めるものなどいなかった。