第72話 赤と白、どちらがお好き
食前酒で既に盛り上がってくれたカイルのテンションは高い。
ナナミとミハルにも催促されてもにこやかに応じて二人に差し出し、シンとサファイルは、酒精が弱いものはいらないと言われたので、ウイスキーをロックで出している。
カウンターにドンとボトルを置き、
「後は、手酌で勝手に飲んでくれ」と言って、料理に取り掛かる。
一皿目はグリーンサラダ、ごくごく普通のサラダだが、マヨネーズとフレンチドレッシングを添えて出す。
フレンチドレッシングは、オリーブオイルに塩、胡椒、ビネガーを混ぜ合わせるだけだが、サラダといえば通常は塩を少し振るのみで、マヨネーズが高級品。
さて、フレンチドレッシングの評価はどうだ?
「お待たせいたしました、こちらのサラダにマヨネーズかこのドレッシングをかけてお召し上がり下さい」
ドナーテルの娘、クリスティナは好奇心旺盛のようで、運ばれてきたドレッシングをしげしげと見つめ匂いを嗅ぎ、母からお行儀が悪いと叱られたが、それよりも未知の食への誘惑に勝てないようだ。
「これはビネガーかしら?」
「ええ、そうです、ワインビネガーとオリブの絞ったオイル、塩、胡椒で味を整えております、簡単に作れるものですので、お気に召したのでしたらご自宅でも作れるようレシピをお渡ししますよ」
そう言われて、少しサラダに付けて一口食べてみる。
「美味しいわ、お父様、これだったらいくらでも食べられそう、マヨネーズはなかなか手に入らないのですもの、このレシピ買って下さいませ」
ドナーテルとその妻、息子もドレッシングを少々ふりかけ一口、食べてみる。
「本当に! これならいくらでも食べられそうですね」
と、妻が控えめに微笑むと、
「良し、買おう、そのレシピはいくらかな?」
うーん、お金を取るつもりは無かったんだけど、どうしようか?
本当に混ぜるだけの簡単レシピだしな、でもなんか、ただでいいって言ったら怒られそうな気がするんだよ、商売に誇りを持ってそうだしな。
「えーと、これは本当に簡単なレシピですので、ドナーテル様の商店で売っていただき、その利益の一部を私がいただく形ではいかがでしょうか? 」
なるほど、この御方は私の商売の腕と誠実さを見せて見ろということか? なかなかどうして商売人としての素質もお持ちでいらっしゃるらしい、優れた領主様になるためには必要な才でもあるしな。
「よろしいでしょう、では、詳細は後日、改めてお願いいたします」
「そうですね、では、後日改めて。今はどうぞ、お料理をお楽しみ下さい」
良かった、この人って時々俺のこと値踏みするような眼で見てるからな、とりあえず今の対応で良かったんだよな。
「お父様はお母様に甘すぎます、私が言ってもお返事もして下さらないのに、お母様が欲しいと言えばすぐに買おうだなんて」
「味見もしてないのに買うかどうかなんて決められないじゃないか」
「それは、そうですけど」
「そうだよ、クリスティナ、私達はついででいいと自分で言ってたじゃないか」
クスクスと笑いながら、兄のセルシオがクリスティナをからかう。
ヴァイス達は、高級品とされるマヨネーズとドレッシングを珍し気に見ながらも、交互にかけて味わいを楽しんでいた。
さて、サラダの次は、これぞ居酒屋の定番メニュー、フライドポテトとチーズの盛り合わせ。
コース料理って言っても、お上品なものだけじゃないんだ、だって、ここは居酒屋だからさ、高級料理店でフライドポテトなんか出ないだろう。
ポテトとチーズはこっちの世界にもあるけど、芋は丸ごと潰して食べるか、茹でて塩で食べるのが一般的、油で揚げただけでこんなに美味いってズルいよな。
そろそろ食前酒も飲み終わった頃なので、ドリンクの追加を取りにいく。
「食前酒も飲み終わったようですので、追加のドリンクはいかがですか?」
「そうだな、じゃあ、今度は私達に会う飲み物を選んでもらってもいいかな、そのほうが美味しいものに出会えそうだからな」
この人の笑顔ってなんか、緊張するんだよな、同じギルマスでもアダムさんとは大違い。やり手のイケオジの笑顔って裏がありそうで怖いんだよ。
「そうですね、メインがステーキですからドナーテル様と息子様には赤ワインがお勧めと言いたいところですが肉料理に合う白ワインもございます、お試しになられますか? ご婦人方には、口当たりの良い発砲ワインもございます」
この世界での良いワインってメチャクチャ高いからさ、日本の食卓ダンジョンからフランス、イタリア、チリ産のお手頃価格から、ややお高めのワインまで揃えましたから! 実は俺、ワインに関しての知識はそれほど無い、だから、味見してくれると嬉しいんですよ、ドナーテルさん。
「うむ、面白そうだ、白ワインでお任せしよう」
「かしこまりました、少々お待ち下さいませ」
カウンターのメンバー達はカールさん達と和気あいあい、好きな飲み物とつまみを注文してるから放っておいても大丈夫そうだ、カールさん達に来てもらって良かったよ。フライドポテトと煮卵を山のように積み上げ、くいくいと煽るように飲んでいるシンさんとサファイルさんもご機嫌良さそうだしね。
肉料理には赤ワインが定番だけど、ミノタウロスの肉ってちょっと和牛に似てるんだよね、霜降り具合とかがさ、赤身のオージービーフとかだと確かに赤ワインのほうが合う気もするんだけどさ、蕩けるような極上の脂ってさ、例えば大トロとか中トロとかさ、日本酒合うだろ、日本酒も美味い奴はフルーティな味わいなんだよ。
だから、俺が今回選んだのは、ブルゴーニュのムルソー、果実感が残ってる感じ? 自分が飲むんだったらもっとお安いチリ産を選ぶんだけど、ここは相手を見て選ばせてもらったよ。
お館様なんて呼ばれても、自分が飲むのにそんな高いもの選べない俺って、貧乏性なのかな?
お待ちかねのミノタウロスのステーキと、ムルソーとロゼ・シャンパン。
淡いピンク色がご婦人方には受けるだろうとの予想通り、上々の評価だ。
そして、緊張したドナーテルさんの試飲。 優雅な手つきでグラスを傾け香りを楽しみ、一口含んで、合格を貰った時にはほっとしたよ、ワインももちろん勉強したけど奥が深すぎるし、値段が高すぎるのが多くてそんなもの買えなかったんだよ、だからさ正直言うと、ワイン通の人には敵わないんだ。
ふうむ、確かにこの肉には白も合う、いや、白のほうが合うかもしれない。この繊細な甘さの肉には、渋みのある赤よりもすっきりとした白のほうが合うかもしれないが、このようなワインは初めてだ。
肉のしっかりとした味わいに負けないボリュームを感じさせてくれる白ワインなどとは、本当にどこからこのようなワインを見つけてこられるのか、そして、料理に合わせて選ぶセンスも見事! まったく面白い御方よ、この街に引っ越してきて正解だったな。
悪いが、セルシオに店を譲るのは当分先になりそうだ、とワインと料理を心から楽しむドナーテルだった。
一方、ヴァイスとマリーナは、ラガーを注文しミノタウロスのステーキを楽しんでいた。
「こんな美味しいお肉は初めてよ、ありがとうヴァイス」
満面の笑みを見せてくれるマリーナに見惚れてしまい、ごまかすようにラガーに手を伸ばすヴァイス。
そろそろ、お腹もふくれてきたようだ。
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