第7話 お買い物
俺は元々、家出するための準備をしていたから、ナナミの買い物と街案内がメインかな、
街の広場に出て、屋台でボアの串焼きとパン、飲み物を買って空いているベンチに腰かける。
「もうじき、昼時でここら辺も混みだすから、その前に食事しよう。店の中に入って会話をきかれたくなかったから、外でいいよな、天気もいいし。」
飲み物を受け取って、口をつける。果実水だ。
さわやかな甘みを感じて思わず「おいしいっ。」 と言葉に出た。
「好みに合ってるようで良かった、俺は食事する時にあんまり甘い飲み物は合わないと思うから、それにしたんだけど、甘いものが好きなら買って帰って、家で食べよう。」
そう言って、食べながらダイチが街の案内をしてくれる。
東西南北にそれぞれ門があり、西門が王都に続いていて、南門は荒野をはさんで魔の森につながる。北は
山脈を望む軍閥のトール伯爵家、東は小領地が連なり海洋王国、エスカイアとなる。
シュバーツェンの街は比較的温暖な地方でアスガルドの穀倉地帯と言われていることや、
良く使うであろうお店の場所、各ギルド等々、ダイチが買った家は冒険者達がよく使う宿屋が立ち並ぶ
通りの近くだと話を聞きながら食べた、ダイチが選んでくれた串焼きとパンもおいしかった。
食べ終わったので、てくてくと商店街に向かいながら、辺りを眺めると、
石造りの家々、石畳が広がる道路は中世ヨーロッパの街並みの中を、
耳長族、獣人族、小人族、が行きかい、店先に並ぶ品々も面白い。
初めて見るはずのものなのに、見覚えがあるような不思議な感じ。
見覚えがあるように思えるのは、フレイアの記憶なのかな?
そんな事を思いながら、一軒、一軒の店先をもの珍し気にのぞいていく。
そんなナナミが一軒の店先で立ち止まった。
花や木の実のブローチや、きらきら光るネックレスが並んでいた。
「何が欲しいの?」
そう声をかけると、
「んー、なにか髪を結ぶものが欲しいなぁ。さすがにこんな長い髪じゃ手入れしきれないしね。」
そう言って、さらさらストレートの自分の髪を触る。
腰まで伸びる手入れの行き届いた美しい髪だが、確かにこれからは侍女もいないし、
自分のことは自分でやってもらうことになる。
ダイチは店員の女性に声をかけて呼び寄せて、
「この人に髪飾り?、髪を結ぶものを選んであげて。俺じゃ分かんないから。」
二人で楽しそうにいろいろと手に取り、選び始めて、二人の会話が耳にはいってくる。
店員ののしっぽがゆらゆらと揺れている。何を選んでも似合う! 美少女は得だ!
とテンションアゲアゲの猫耳娘に若干、押され気味なナナミと目が合う。
「どれでも、好きなもの選びなよ。」 そう言うと、
「ほらほら、彼氏もああ言ってるし、ここは素直にね、」
と大きな花飾りや、ふんだんにレースをあしらったものを手に取り始める。
「彼氏じゃないし。」 と反論しながらお店の中を移動していく。
結局、赤いシンプルな細いヒモ状の先に房がついているものを選んだので、
その色違いを含めて会計を済ませ、同じように洋服と靴もいくつか買い揃えて、
焼き菓子を買って家に戻る。
家に戻ると、ナナミが腰まであった長い髪を、肩にかかるくらいまでバッサリとハサミを入れたので、
驚いた。
「何をしてるの? 髪には魔力が宿るって言われてるのに、そんな切っちゃうなんて、
・・・・・(フレイア様は)大丈夫か?」
「大丈夫だよ、髪には魔力が宿るんじゃなくて魔力の影響を受けやすいみたいだよ、
だから、魔力が強いと言われる高位貴族は、色のバリエーションが豊富で魔力が少ないとされる平民には茶色が多いんだって。」
こともなげに受け答えするナナミに、又、少し驚きを覚える。
「よく、そんな事知ってたね、それはフレイア様の知識なの?」
「そう。さすがに髪を切るのはどうかと思ったけど、フレイア様も乗り気だったの。
一度、短くしてみたかったんだけど、勇気がなくて出来なかったんだって。私が疑問に思ったことは、
フレイア様が答えてくれれば、自然に頭の中に浮かんでくるの。」
さっきの街中での様子を見てても、ナナミは自然にこの世界になじんでいる感じがする。
いきなり、前世の記憶が戻って、二重人格?
なんて心配してたけどこのままなら大丈夫そうだ。それは良かったけど、
さて、これからどうしようかと俺が考えていたら、
「ねえダイチ、私、冒険者になる!」
唐突に宣言されました。
なんで?!