第61話 一番乗り
カイルの目論見通り、二人はシャーベットで味わう初めての冷たい甘さに感動し、こってり系の食事の後でもこれなら負担無く食べれるとか、いや、このシャーベットならもっと大皿で食べたい、と言って、あまり食べすぎると冷たいのでお腹壊しますよ、と言われ、アダムさんが子供みたいにしょんぼりしてたので、お代わりを出してあげたら、復活したとか。
蛇口をひねるだけでいつでも水を使えることに驚き、お湯まで使えて、湯舟には溢れるほどのお湯が張られていることに、こんな贅沢を味わえるとは・・・・・・と感動したところに、シャワーの存在を教えてもらい、恐る恐る使ってみると、すっかりはまってしまったとか。
朝食の、お味噌汁に鳥そぼろ丼を食べながら、使用人達も今はまだ、人数も少ないこともあり、昨夜のお風呂も主人達が入った後であれば自由に使うことが出来、食事の賄いも味見を兼ねて、ほぼ同じものを食べているときき、ギルマスの俺よりよっぽどいい暮らししてんじゃん、と肩を落として寂しそうにしていたとか。
細かいことはいくつかあったが、二人ともイザ・カヤルでの滞在を心から楽しんでいた。
「こんだけの施設がありゃあ、すぐにでも、人を派遣出来るな。」
シュバーツェンの街はアリサに任せて、俺はこっちの責任者としてやろうかな。
「そうですな、備品などは用意せねばなりませんが、思ったよりも早く始動できそうですな。」
朝食の鳥つくね丼もいたく気に入り、このような美味しい食事を妻にも食べさせてやりたいと言ったとら、では是非お土産を持って帰って下さいと言われ、恐縮しながらも、出来上がるのを待っているところなのだ。
それをきいたアダムが、俺も、俺も欲しい! とアピールをして、ちゃっかり自分の分も作ってもらっている。
「お二人ともご満足いただけたようで、良かったです。」
「いやあ、もう、ここに住みたいぐらいだぜ、カイル。」
「予想を上回る快適さでございました、ですが、これでは、こちらに移住を希望する人達が殺到しそうですな。」
・・・・・やっぱり、そうか、こっちが快適すぎるんだよな、水だって魔石があれば使えるけど、飲み水には出来ないし、せいぜい洗い物に使うぐらい。湯舟を満たすぐらいの魔石なんて純銀貨5枚ぐらいか?
一般的な家庭の平均の月の生活費が金貨10枚位だから、お風呂なんて富裕層にしかないし、それだって毎日入るなんて聞かないしな。
飲み水なんて、それこそ毎日井戸に汲みにいかないといけなんだから、生活レベル違いすぎ! 水だけでこれだけ違うんだから、誰だって快適なほうを選べたいよね?
「獣人の方達は、過去にアンガスの悲劇があったので、無条件で受け入れようと思っておりますが、シュバーツェンの街の方々は、行き来は自由にしていただいてかまいませんが、あっ、もちろん街への出入りの税金はいただきませんよ、ただ、移住については制限をかけようと思っているのです。」
「移住への制限とは、どのようなものでしょうか?」
「そうですね、まず、人族主義の方はお断りさせていただきます、先住しているのが、ドワーフ族と蛇人族でもありますしね。」
「なるほど、妥当なご判断かと思われますな。他にはなにかございますかな?」
「あとはですね、申し訳ないのですが、移住を希望される方は、こちらからお声がけさせていただく方か、定期的に募集をいたしますのでそちらに応募していただく形になるかと、思います。この街は人が来て、そこから街が広がっていくと言うよりは、先に街が出来ているところに移住していただく形になりますので、通常の移住とは少々異なってくると思います。」
確かに、人が来て街が出来るのではなく、先に街ありき、となるのか、それもまた何かのお考えあってのことなのだろうが、この御方のお考えは読み切れぬな、誠に面白い。
冒険者達も、今後はテントでの寝泊まりは、ギルドに併設された広場だけとなるが、水道と公衆トイレも完備され、別料金で有料となるがシャワーブースまで用意されており、至れり尽くせりといったかんじで、雑魚寝でかまわない者達はギルド内に男女別の簡易宿泊所もあり、荷物を預けられるロッカーは準備中だ、いっそギルドに泊まりこむのも有りか? などとアダムは呑気に考えていた。
その頃ドナーテルは、真剣にこの街への移住を考えており、カイルにも、是非、家族で移住をしたいと申し出をして、移住希望者第一号ということで、快く受け入れられ、更に屋敷までプレゼントされたときいて、アダムが本気で悔しがっていたが、もう遅い。
仕事が出来る男は、決断も早いのだ。
ダンジョンの大幅改装もあと二日後に迫っており、各ギルドの動きもいよいよ慌しきを増してイザ・カヤルの街は動き出そうとしていた。
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