第42話 いざ、実食
シンさんが、変態かどうかはひとまず、脇におくとして。
今日から一緒に暮らすとなると、歓迎会したいよな、となれば、何を作ろうか? せっかくだから、俺にしか作れないものがいいけど、ダンジョン産の食材、調味料、・・・何がいいかな・・。
そうだ、・・・忘れてました。だって普通使わないから、忘れてけど、あれ、あれ、俺のスキルっていうか、時空魔法で出来た”極凍の雫” おっ、あった、これだよ。
アイテムボックスから取り出してみる。もちろん手で触るなんて出来ないから、魔力で浮かせて取り出す。
「主様、それは何ですか? 我も今まで見たことが無いように思いますが、」
「これはね、”極東の雫”っていって、超低温の液体なんだよ。今日はこれで美味しいものつくるから待っててね、シンさんの歓迎会をやろうよ。」
これから作る料理を思い浮かべて、ウッキウキでキッチンに消えていくダイチ。
なんだかわからないままに取り残されたシンに、ナナミが話かける。
「もうね、あーなったら、放っておいたほうがいいから、料理が出来るまで私と手合わせしようよ。」
「うむ、それはかまわぬが、我も料理とやらを手伝ったほうが良いのではないか?」
「・・・止めておいたほうがいいと思うよ、ダイチの料理は独特だし(この世界では)、シンさんのために用意してくれてる、ダイチのせっかくの心遣いなんだからさ。」
「むっ、主様が我のためにか、そうであれば、待つのが道理じゃな。」
そうそう、と頷きながら、シンさんを連れ出すナナミ。
蛇って獲物を丸呑みでしょう、どんな料理になるのか恐ろしいし、万が一、シンさんが料理上手だったりしたら、私の立場がないじゃない。
ナナミとシンが出ていったあとのキッチンで、猫又達と準備をするダイチは実に楽しそうだった。
「にゃにをすればいいのかにゃ?」
「まずは、このレモーネ3~4個を半分にして、絞ってくれるかな、あとはこのメローネも皮をむいて一口サイズにしてくれる。」
メロン、いやメローネ1個にカウカウのミルクをコップ一杯、それを液状になるまで風魔法でしっかり混ぜ混ぜしてもらった。ミキサーの無いこの世界で魔法はめっちゃお役立ち。やっぱり、7大魔法は俺も練習しようかな? ・・・・焦んなくてもいいよな?
メローネは。それ自体が甘いからこれだけで十分だけど、レモーネは甘みを加えないとな、まず、砂糖と水を煮立たせて、砂糖が解けたら、十分に冷やす。極凍の雫で氷を作っておいたぜ。俺、天才!そんでもって、冷えたら絞ったレモーネとコップ半分の牛乳を入れながら、これも混ぜ混ぜしてもらう。
良し、あとはこれを冷やしながら、1時間おきにかき混ぜると、出来上がりだ。
そして、本日のメイン。焼き肉だ! もちろん、この世界にも焼き肉はあるけど、基本的に塩、コショウ、ハーブの味付けなので、味噌、醤油を使ってタレづくりだ。焼き鳥があれだけ受けたんだから、焼き肉も受けるはず。
あとは、きっとシンさんに受けるんじゃないかと思って、ホルモンも用意してみる。この世界では、あまり食べられてないみたいなんだよな、まあ、下処理をちゃんとしないと、臭いや苦みが残っちゃうからな。下処理とは言っても片栗粉で十分に洗うだけなんだけどね。塩や小麦粉使う人もいるから、そこは好き好きで。
粉が汚れや余分な脂を吸着してくれるので、丁寧にもんで水で流す。これを繰り返して、味噌ダレに3~4時間つける。塩ダレもいいんだけど、お酒も飲むなら、俺は味噌ダレ派。
あとは、肝心のお酒、シンさんめっちゃ飲みそうだしね。ビールに梅酒、ウイスキーも用意する。本当は日本酒飲ませてみたいけど、今はないから、今度ミハルにお願いしよう。この世界のエールやワインも用意した。
多すぎるかな? でも、蛇神って、酒豪のイメージあるしな。今度、ミハルも誘って一緒に誘って飲みたいねと言ったら、猫又達のしっぽが大きくゆれていたよ。
ずっと、洞窟から出られなかったんだから、皆でワイワイ出来たら、きっと喜んでくれるだろう。
そんな事を考えていたら、ナナミ達が帰ってきたので、焼き肉パーティだ!!
焼き肉と言えば、やっぱり炭火、特にホルモンはね、庭に簡単なバーベキューコーナーを作って、炭火をおこして準備完了。
まずは、ねぎったぷり塩タン。タンとハラミはホルモンか? 昔、疑問に思ったことがあったが、正確な定義は特にないらしい。 どうでもいいな、そんなことは。
今回のホルモンはタンとモツを用意した。
お肉屋さんで、牛タンとモツを買いに行ったら、そんなもん店先に置くわけねーだろ、って怒られた。なので、店の裏、解体場所で部位を切り取ってもらったんだ。眼の前で見てるのは、けっこうきつかったけど、こういうのも慣れていかないとな。
いざ、実食。
久しぶりの焼き肉は、うまーい! ネギ塩タン、サイコー! ビールがめっちゃ合う!!
タンも極凍の雫を使って、半冷凍にして、薄くスライスしたのと、厚切りにしたのと両方用意した。
薄くスライスした牛タンにネギをたっぷり載せて、丸めて包み込むようにして、パクリ。そして、ビールをゴクッ。くーっ、美味過ぎる。
シンさんが、不思議そうに見ているので、同じように焼いて、皿にのせてあげた。お箸の持ち方も初めてなのに、器用に扱い持ち上げて、しげしげと眺めてから、パクリ。
シンさんの目が一瞬、大きく開かれて、もぐもぐ、ごっくん。ビールをごくごく、ごくごく、ごきゅ。
一口でジョッキ一杯飲み干しちゃったよ。さすが蛇神様。多めに用意して正解だったな。
「主様、これはなんですか?美味過ぎます。」
顔がキラキラして、子供みたいになってて、なんか、可愛いかも。
「それはね、ミノタウロスの舌だよ、俺らの世界ではタンと呼ばれてたんだ、美味しいだろ。」
「そのようなものが。このような美味になるのですか?」
美味しいものを食べるのって、やっぱ幸せの一つだよな、シンさんのキラキラ笑顔を見てると、俺も嬉しいよ。たとえ、その横でナナミが無言でがっついててもさ、あつ、でも、猫又達がフーフーしてるのは、癒されるけどな。




