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第34話 猫又スキル

ダイチを殺した後に魔石を奪うつもりだったため、近くに潜んで一部始終を見ていたフェルミーナは闇に紛れて走り始めた。狐人族の血をひくためか気配を押さえながら走っていても、かなり早い。



失敗した、あの男達は役立たずだと、ギリッと唇を噛みしめる。

どうする?  どうすればいい?  


いや、屋敷に戻ってから考えればいい、屋敷に戻ればなんとかなる、さすがに領主の屋敷に勝手に入るような真似はしづらいだろう、万が一、侵入されてもあそこには、防御の魔道具も起動させてあるし、それに何よりもエリナがいる。あの子がきっと上手くやってくれる。そうよ、エリナがいれば心配いらない、あの子に全て任せればいいのだから。


思考誘導された者が時折見せる特徴的な表情、まばたきをせず瞳孔が細くなる、正に典型的なそれに気が付いているのは本人ではなく、既に先回りをし闇の中から夜行性動物特有の鋭い視線を送るイルガーとサイゾーくんだった。


狐人族の血を引くフェルミーナも夜目は効くほうだが、まさか先回りをされているとは思わないため屋敷に逃げ込むことだけを考えていて、警戒を怠っていた。


あと少し、あと少しで逃げ切れる、そう、確信していたのに、いきなり体を後ろに持っていかれる。驚いて目を見開いたフェルミーナが見たものは、しなやかで強靭な体つきをした、黄金と漆黒が混ざり合った美しい髪の色をした、虎人族の姿だった。



ああ、まだ生きていた、そう、遠い意識の下から湧き上がってくる想い。


獣人達の王氏族とも言える虎人族。あの、アンガスの嘆きの夜から姿を消したと聞いていた、その姿はなんて力強くて美しい、


暗殺未遂を企て、それに失敗し、今、それから逃げている最中なのに、自分を見下ろしているこの美しい獣人がその追手なのに、薄れゆく意識の中でなぜか安堵している自分に気付き、目元に涙が盛り上がってくることを止められずに、意識を手放した。



「おいおい、サイゾー、この女、大丈夫かぁ?」

意識を失ったことを心配しているのではなく、


「なんか、薄ら笑いしながら、涙浮かべて気ぃ失ってんいっちまたよ。」

ヤベエ奴かと心配していた。


「大丈夫ですにゃ。気を失ってるだけなのにゃ。意識が戻れば心配ないのにゃ。」


「なら、いいけどよ、さっき口に入れた変な薬のせいかと思ったぜ。」


後ろから軽く足を払って、襟元を掴み倒れたすきにしのぶから預かった香玉:眠り草を口に入れて気を失わせたのだ。ナナミから教わった柔道の技が早速役に立ったようだ。


「しのぶの香玉に副作用はないのにゃ、ただ、本来は口に入れにゃいで、叩きつけて割ったり、水で溶かして香を吸わせるのにゃ。」


「ああ、じゃあ、ちいと効き目が強すぎたってことか、ってか、本当に大丈夫か。んなもん、口に入れてよ。」

疑わし気な目でサイゾーを見ながら、フェルミーナを木陰に運ぶ。


サイゾーは先程、触れたフェルミーナから流れ込んできた思念を思い返していた。


やっぱり、操られていたのにゃ、それに虎人族のイルガーを見た時のフェルミーニャはどこか、ほっとしていたのにゃ、追い詰められてダイチ様を襲ったけど、どこまでが操られての行動か確かめにゃいといけないのにゃ。




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◇サイゾーくん、オス 猫種、日本猫、雉トラ   スキル、情報収集、

◇姫子     メス 猫種、ラグドール     スキル、気配察知 一撃必殺

◇ハットリ   オス 猫種、ベンガル      スキル、忍者

◇シノブ    メス 猫種、フォレストキャット スキル 香術

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「んで、どーすんだ、この後は?  黒幕は出てこなそうだよな。」

「出てこないなら、無理矢理出すのにゃ。」

「おっ、いいね、」


すんすんと、フェルミーナの周りで匂いを嗅いでいると、ぴくぴく動く鼻が胸元の辺りで動きを止めた。洋服の上から今度は肉球でぷにぷにと胸を触っていると、すぐになにか硬い感触があった。


「ここに魔石があるから、取ってほしいのにゃ。」


襟元のボタンをいくつか外すと、確かにペンダントに付けられた魔石があった。


「あー、もう、めんどくせーな、どうやって外すんだよ、これ、千切ったらダメなのか?」


「出来れば千切らないで欲しいのにゃ。」

首ごと千切りはしにゃいだろうが、ケガ程度は余裕でしそうだからにゃ。


しばらく苦戦していたが、なんとかペンダントを外すことが出来た。


「ほらよ、外れたぜ。」

ポイッとサイゾーに投げ渡す。


サイゾーくんが魔法陣が書かれた紙をマジックバッグから取り出し、その上にペンダントを載せる。

しばらくすると、ペンダントから黒い霧状のものが漏れ出して、魔法陣の真ん中に渦を巻いて集まりだす。


黒い渦がゆっくりと大きくなり、20センチほどの黒い渦巻が出来上がった。


「イルガー殿、この渦に手を入れて最初に触ったものを引きずりだすのだにゃ。」


「うえっ、これに手を入れんのか?  気色わりーな。」


文句を言いながらも、ずぶずぶと指先から入れていくと、肘まで入った辺りで何かが手に触った。慌てて掴みこちら側へと引っ張るが、片手一本だと思うように力が入らない。脚を踏ん張り、もう一度、力を込めて引っ張る。ずるっ、ずるっと黒い渦から腕がこちら側へと戻ってくる。


「なあ、サイゾー、俺が掴んでんのはなんなんだ?」


手首の辺りまで戻ってきたが、それ以上が進まない。虎人族のイルガーでも力負けしそうな勢いなのだ。

滝のような汗を流しながらも疑問を口にする。だが、力任せの勢いだけじゃない、滴る汗には、冷や汗も含まれている。さっきから背中がぞくぞくして悪寒が酷くなっていく。


これ以上、長引くのは不利だと判断し、魔力を解放し身体強化をする。ほんの数分だが身体能力が倍になるのだ。これで押し負けたら数十分は歩くのもままならないが、力の競り合いに勝ったイルガーが引きずりだしたものは、うようよと蠢く髪の塊だった。






黒幕までたどりつけませんでした。(汗っ)次回は屋敷に乗り込みます。


お読みいただきありがとうございます。


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1日1話、更新していく予定です。


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