第30話 義母フェルミーナ
翌朝、ダイチとナナミ、サイゾーくんは大広場に来ていた。大広場に入りきれない人達も大勢いる。
ナナミはサイゾーくんをしっかりと胸に抱いていた。歩けるにゃ、と言われてもこんな人込みの中危ないからダメと抱え込む。もふるチャンスは逃しません。
10時になり、設置された台上に冒険者ギルドマスターのアダムが上ると、全員の目が注がれる。マイクを手に持ち拡散の魔力が込められた魔石に魔力を通す。警備隊の手により既に街のあちらこちらに魔石が設置されていた。固唾を呑んで何が起こるのかと見守る人々に声が届く。
「俺は冒険者ギルドのマスター、アダムだ。単刀直入に言おう、ピンクバレーの近くに新しいダンジョンが発見された。」
どよめきが起き、騒然となりかかるが、アダムの「静かに!」 その一言で静まりかえる。
「そして、驚く事にこのダンジョンは出来たばかりらしく、成長中でもあるらしい。ダンジョンは生き物だ、時代とともに変化すると言われているが、今回のダンジョンは今までのものと全く違ったオリジナルなダンジョンになると思っている。そのため今後、冒険者やギルドの本部職員、王都の魔術師達も来るかもしれない、勿論、冒険者も増えるだろう、ダンジョンは恵みをもたらす、この街は今後発展をしていくだろう、どんな発展をしていくかは俺達次第だ、皆、力を貸してくれ!俺達の街を俺達の手で発展させるんだ!」
おおおおっ、当たり前だ! 協力するぞ、何でも言ってくれ、この街のために、シュバーツェンのために、人々の熱気は明るい未来を夢見て、更に高まっていく。
「ダンジョンはしばらく、入場制限を行う、ピンクバレーに近づくにも許可が必要となる。詳しい話は明日、冒険者ギルドで8時からするつもりだ、今日は冒険者ギルドから今後の発展を祈って、振舞の酒と料理が用意してあるが、悪いが今まで弱小ギルドだったから、質も量も足りないんだ。コップも皿も酒も料理も持ち込み大歓迎だ。よろしくな。」
よっしゃー! 酒持って行くぜ! あったりめーだろ、俺もだ、俺も、俺も、私も、よーし、俺の店からも振舞うぜ、持ってけドロボー、遠慮なく持ってくぜ!
朝から酒が振舞われ、明るい未来を誰もが思い描いていた。そして、この日はオリジン祭と呼ばれ、来年以降も続いていく。
街が賑やかな活気に包まれている頃、少し離れた高台の上に建つシュバーツェンの屋敷から忌々し気に街を見下ろしている一人の女性がいた。フェルミーナ・アンガス・フォン・シュバーツェン、カイルの義母だ。
こちらが先にダンジョンを探していたのに、先を越された。冒険者ギルドからダンジョン発見の知らせをきき、確認したらカイルがダンジョンマスターの魔石を持っていることがわかった。契約を交わすのはこの私のはずなのに。ギリッ と美しく整えられた爪を噛む。
フェルミーナは何度も人を雇ったり、自分の使い魔にも探させていたのにダンジョンは見つからなかった。ミハルはダイチ達に会うまでは、ひっそりと洞窟の奥で過ごしていて、ミハル自身の魔力も年々弱まり、そんなミハルを守るために猫又達は悪意の強いもの、負の気が多いものを目くらましや様々な手を使って近寄れないようにしていたからだ。
そのダンジョンがやっと見つかった! あとはただダンジョンマスターを探し出し、力づくでも契約させるだけだ。朽ちかけたダンジョンならばマスターとの契約も容易いはず。早速、使い魔のメアをダンジョンに送り出した。メアはブルーピジョンという魔鳥で青い羽根が美しく戦闘能力はあまりないが主人と意識共有が出来る。ダンジョンの近くまで行くと、一組の冒険者達が見張りをしていた。気づかれないようそっと気配を消して近づいてみる。
冒険者達は、ダンジョン攻略について盛り上がっていた。聞き耳を立てているとダンジョンマスターについては何の話題も出てこない。最下層まで辿り着いたものなど今までに二人しかいないとされており、一人は800年前、アスガルドの建国王オーディエルとそれから300年後の魔族との聖魔大戦で命を落とした大賢者、ケンタウロスだけなのだから、マスターの話題が出ないことは当たり前だと思いながらもほっと一息ついていたら、不意に猫又達の話題が出たので、一層気配を消してじっと聞いていた。
フェルミーナは、ピンクバレーの近くにダンジョンがあるのを父から聞いて知っていた。そしてそのダンジョンに時折現れるネコの存在もだ。おそらくはマスターの目や耳となっていのではないかと聞いていたのだ。それなのに、そのネコが人間と一緒にいる?シュバーツェンの街に居る?
慌てて、街へと戻りネコと人間を探すと、すぐにナナミが見つかった。しばらく尾行してみるとカイルが魔石を持っていることがわかり、キリキリと胃を掴まれるような焦燥感がフェルミーナをひりつかせる。
やっとお父様と約束した獣人達を助け出せる力が手に入る。お母様を殺した奴らに復讐してやる。
・・・それなのに、なんで、なんでカイルがマスターと契約をしているの? あり得ない! 邪魔をするなら殺してやる。
この屋敷は既に私のもの。邪魔なカイルは自ら出て行った。なぜかジェドはあいつに懐いていたから、手出しをしなかったが、私の計画の邪魔にさえならなければどうでも良かった。可愛いジェドさえ無事に後継ぎになれれば。ジェド、私の子供。このアスガルドの貴族に殺されたお母様。私はアンガス家の血をひくジェドをこの国の貴族にするの。お前達が潰したアンガスの恨みを知るがいい。あんな世間知らずの子供を殺るなんて、簡単だわ。カイル自身に恨みはないけど、同じ貴族としてお前の命で責任を取ってもらうわ。
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