第20話 ダンジョンへ
「この酒はどこから、持ってきたんだ? お前達の故郷の酒か?」
よしよし、手応えあり、いい感じだ、だが、気を緩めると余計な一言からぼろが出たり、打ち切りになったりするからな、契約締結するまで気を抜くんじゃないぞ。
「実はこの近くで手に入れたんですよ。それで、ですね、もしかしたら、未発見のダンジョンなんじゃないかと思いまして、一緒に行って確認してくれる人を探してたんです。」
「未発見のダンジョンって、すごいじゃねーか!」
「そうよ、ギルドからどれだけの報奨金が出るか・・。」
「すげーっ!!」
「そうじゃ、長年冒険者をやってるワシも聞いたことがないわ。」
「・・・・凄い。」
みんな、興奮して酔いも一瞬で吹き飛んだようだ。
「ギルドには、もちろん伝えるつもりですが、その前にドワーフの方に見ていただきたい場所があったんです。鍛冶神様のシンボルが刻まれた大岩があり、その近くからこれらの酒が見つかったので、あまり、その・・・・勝手なことをして、ドワーフの方に縁のある場所だったりしたらやだなあって、ナナミと話してたんです。」
急に話を振られて、やや焦りながら、
「そ、そうなんです、私達だけじゃ良く分からないから、どうしようかなって,ドワーフの人達だったら鍛冶神様に詳しいかなって、」
もう、どういう展開になるのかちゃんと話しなさいよ、と心の中で突っ込んだが、実は猫又達とのもふもふに夢中で聞いていなかった。
「でもよお、二人共、甘すぎるんじゃねのか、もし、俺達がお前らを出し抜いてギルドに報告したら、どうするんだよ。俺らさっき出会ったばかりなんだぜ。」
と、イリアンが言うと全員が頷いていた。
「まあ、確かに脇が甘いことは否定しませんが、どうせ、この街には二人共知り合いがおりませんし、それに、さっきから皆さんの足元にいるサイゾーくんが、警戒してませんから。大丈夫でしょう。サイゾーくんの見る目は確かですよ。」
慌てて、テーブルの下を覗き込むと、とてとてと、テーブルの下から移動して、五人に挨拶をする。
「サイゾーですにゃ。皆さんは安心出来る人達ですにゃ。よろしくお願いしますなのにゃ。」
「サイゾーくんは、こんな可愛いけど、凄いにゃんこなんですよ。」
ナナミがドヤ顔で自慢する。
「ああ、そうだな、この俺が気配に気づかないなんて・・・、すげーよ。見た目が可愛くて中身がスゲーのは、あんたもだけどな。」
と、虎人族のイルガーがナナミとサイゾーを見比べてため息を吐く。
「それに、騙されたら、それもまあ、勉強ってことで。」
「なんか、ダイチも見た目より、肝がすわってんのな、それに未発見のダンジョンなんて冒険者として行かないなんて、ありえねーし、俺はこいつらに付き合うぜ。一緒に行こうぜ。なあ、」
「おうよ、あんな旨い酒見逃せねーよ。」
「私も、行くわよ。」
「俺も行くぜ。」
「・・・行く。」
「よっしゃー!、決まりだな。早速明日大丈夫か、ダイチ達は?」
「大丈夫ですよ、では南門に夜明け頃でどうですか?」
「ずいぶん、早-な、まあ、いいけどよ。」
「まだ、場所を知られたくないんで、人がいない時間に出たいんですよ。」
「そうだな、分かった、日帰りか?」
「ええ、夕方には十分戻れると思いますよ、特殊な装備も必要ありませんし。」
明日に備えて、タイガーヴァイスのメンバーは自分達の宿に戻って行った。バルサは残り少なくなったウイスキーを大事そうに抱えている。ラベルは日本語で”山の埼”と書かれていた。旨いはずだ。
「ふうーなんとか上手くいったかな。」
「上出来ですにゃ。」
「私もそう思うわよ。私は自分知識が合ってるのかよくわからないし、フレイアにも冒険者の知識は無いからさ、ダイチに任せっきりで悪いけど、お願いします。」
「出来るだけ頑張るよ、ミハル達にも安心して欲しいしな。さあ、俺達も寝ようぜ。」
ダイチとナナミが眠りに就いた後、サイゾーはそっと夜の街に紛れ込む。タイガーヴァイス。あの虎人族のイルガーは要注意だにゃ、ずいぶん実力を隠してるようだにゃ、今、持てる力は少なく、時間も限られる。出来る範囲で最善をつくすのみにゃ。ひた走りながら、考える。
タイガーヴァイス。実力もありギルドでも評判のいいパーティで、そんな彼らが良く来る居酒屋をダイチにそれとなく教えたのはサイゾーだった。情報収集に特化したサイゾー。他の七匹も固有の能力がある。半獣半神の使役神。その実力は計り知れない。
翌朝、ダイチ、ナナミ、サイゾーとタイガーヴァイスのメンバーは、門の前で落ち合い、出発した。
「なあなあ、ナナミの体術さ、俺にも教えてくんね?」
イルガーはどうしても気になるようで、ナナミにあれこれと話しかける。
「虎人族のイルガーさんに教えるほどじゃないですよ。」
謙遜しながらも、嬉しそうにサイゾーをもふるナナミ。はあー、落ち着く。
岩塩の岩棚、ピンクバレーを回り込み更に歩く事、一時間程が過ぎた頃、
洞窟の入り口が見えてきた。
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