雨と私と君と
私は蜜を求めて飛翔していた。
幼い頃は、いつも葉の上から大きく広い青空を見つめては、自由に憧れていた。
私が羽化してからの、時の流れまでは計っていない。
自慢の漆黒の羽を得た私は、本能的に花を求める。
けれど、変ね。
どこを探しても、花が見つからないの。
私は生まれたばかりで、まだ世間というものを知らないけれど、ここは一体何なの!?
息苦しいまでに、澱んだ空気を撒き散らしながら、疾走している色とりどりの見たこともない物体。
その物体は、聞いたこともない呻り声を上げながら、信じられない速さで右往左往とこの黒い道を、走行している。
正直言って、とても居心地が悪いけど、不運にも私はそこへと迷い込んだみたい。
真っ直ぐ進もうとしても、その物体が巻き起こす走行風のせいで、私は軽々と吹き飛ばされてしまう。
色鮮やかに光る物体の、色が変わる度に二足歩行の生き物達が、大勢でその黒い道を横断している。
そうだわ!
これらよりも、高度を上げて飛べば良いのよ!!
私は閃いて、必死に羽をばたつかせ、それらよりも高い位置へと上昇し、飛行するとようやくそこから抜け出す事に成功した。
ああ、お腹ペコペコ……一刻も早く、蜜を吸いたい。
でもどこを見渡しても、天高くそびえるコンクリート群が、ひしめきあっている。
私がうんざりしていると、冷たい何かが落ちてきた。
一つ、二つ、三つ……やがては段々と、数え切れないくらい。
──雨だわ!
このままだと、私の美しい黒い羽が濡れてしまう。
急いでどこかに身を隠さないと。
私は必死に飛び回った。
雨から避難すべく。
だけど無情にもこの場所は、私を雨から匿ってくれるような所はなかった。
私の黒い羽は濡れ、重さを増す。
大粒の雨が容赦なく、私に打ち付けてくる。
痛い。
重い。
冷たい。
私は力なく、黒い道の上へと落下する。
僅かな体力で、必死に飛び上がろうとしても、無情な雨がそれを許さない。
羽は水分を含み、黒い道の表面に張り付き、更に重みを増す。
それでも生き延びる為に私は、懸命に羽を動かしもがく。
濡れた羽では、空を飛ぶことが出来なかった。
すると、温かい何かが、突然私を包み込んだ。
怖くて、恐ろしかった。
更に私は、必死にもがき暴れた。
温かいけど、辺りは真っ暗だ。
しばらくすると、私は解放されて植物のある場所にいた。
これは、一体……?
目前には、私を見つめている、二足歩行の生物がいた。
もしかして私を、助けて──くれたの……?
雨から私を、守ってくれたというの……!?
すると君は、安心したような顔を見せて、何も言わずに私をその場に残して、行ってしまった。
だけどあいにくここには、花がどこにもない。
雨にこそ打たれずに済んでいるけれど、花のない植木ばかりだった。
濡れた羽の重みと、穿つ雨からの衝撃で、すっかり体力を消耗した私の意識は、次第にゆっくりと暗転していった……。
ああ。
甘い甘い、美味しい蜜が吸いたかったな……。
──見つけた。
私を助けてくれた君。
もうご覧の通り、すっかり雨の中でも平気よ!
河川敷沿いを、雨から身を守る物を手に持って、歩いている君がいた。
雨は、私をすり抜けていく。
不思議と私は、雨に打たれずに済んでいた。
だけど君は、私に全く気付かない。
まるで私が、全然見えていないように。
すぐ真横で、飛行しているにも拘らず。
私は、君の目線の高さで、並んで飛んでいると言うのに。
自己アピールするように、君の周囲をクルッと周ってみたけど無理だった。
いいわ。
じゃあ私は、花のある所へ行くわね。
私を助けてくれて、ありがとう。
そして、さようならを、君へ……。
私は君へ別れを告げると、天高く飛翔した。
雨雲を越えて、更に高い、光り輝く上空へ向かって……。
これは黒揚羽蝶である「私」と、人間である「君」との物語でした。
ツイッターのタグ、「1rtごとに100文字書いてやんよwwwwwwwwwwwwww俺を物書き地獄にして殺してみろよwwwwwwwwwwwwwwwどうせ無理だろうがなwwwwwwwwwwwwww空気通ります」より、15RT頂いて書き上げた作品です。