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未だ分からず《人間らしくない僕と人間らしい怪物》  作者: 甘党でやるきないおおかみ
人ナラ猿モノ
2/29

第二話 人の轍

「ふざけんな・・・」


 そう愚痴を残して駅を後にし、折りたたみ傘を乱暴に開いた。なぜ切れているのかって?それは親のメールがかなりふざけていたからだ。


「駅に着いたんだけどどこに車止めてる?」


 と、駅の近くに親の車が見えなかったため母親にメールした。家族は僕と同じで忘れっぽい。どうせ僕が到着することを昼のうちに忘れて家でのんびりしていたのだろう。駅のベンチに座って返信を待つことにした。

 数分後、母親から返信がかえって来た。返信メールを開いたらこうである。


「あれ?帰ってくるの今日だったっけ?


 本当にゴメン。いま(かえで)の友達一家と外食に行っているの(>人<)


 申し訳ないけど家まで歩いてもらっていい?m(__)m


 帰ったらご飯作ってあげるから待っててください」




 ・・・だそうだ。一応過去に到着予定日時を送ったメールを確認したが今日で間違いなかった。

 僕が帰ってくる日付まで忘れたのか。あっちから帰省しろって言ったのに・・・ていうか絵文字なんていつ覚えたんだ。楓が教えたのか?・・・むかつく。


 そんな怒りも、考えること自体が面倒くさくなってすぐに忘れた。

 かえでというのは僕の妹だ。うちは父、母、僕、妹の四人家族。父親は普通のサラリーマン、母も普通に専業主婦、これまた妹も普通な高校1年生。ごく普通の一般家庭だ。ちゃんと愛情を注いでもらい、すくすく育ち、東京の大学に行かせてもらえた。感謝している。


 ・・・なぜ僕みたいな、周りから変人呼ばわりされる人間があのありきたりな家族から排出されたのかは本当に疑問だが・・・


「ハァ・・・・・・・」


 大きなため息が白く染まり、灰色の空から降りてくる雪に吸い込まれていく。

 ビチャビチャと、消雪水で融けた雪をかき分けてアスファルトを進む。雪用の靴を荷物に入れておいて助かった。普通の靴であったら水が染み込んできて大変なことになっていただろう。横幅の狭い道を急ぎ足で通り抜ける。車に氷水をかけられたくはない。


 数年前、一緒に歩いていた当時のクラスメイトがもろに水を引っかけられて激怒していたのが懐かしい。

 ・・・僕?僕はそのクラスメイトを盾にして回避したから濡れなかった。

 狭い道を抜けて、角を曲がると近所のスキー場を売り込みにしているまあまあ大きな宿屋が見えるのだが・・・その様子が何かおかしかった。雪が降っているというのに、駐車場に十人ほどが集まって話し込んでいる・・・雪かきをしているわけでもないようだし、そのうちの二人は警察官の制服を着ている。付近にパトカーも止まっているから、遠目でも間違いない。


「・・・・・・何だあれ?」


 何があったのか、近寄って聞くほど野暮ではないけれど、異常事態が起きていることは遠くからでもすぐに分かった。何が異常だったのかというと・・・駐車されている宿所有のバスや客の自動車、オートバイの有様が・・・だ。

「・・・・・・どうやったらあんなこと出来るんだ?」

 バラバラ・・・だった。

 タイヤに窓ガラスにミラーにワイパー、座席、ハンドル、トランク、外装、おそらくはエンジン部分を構成していた複雑な機械達・・・マニアでもない僕にはどれがどんな名前の部品なのか正確には分からないけれど・・・自動車が歯車や螺旋一本に至るまで細かく、徹底的にバラバラに解体されて、降りしきる雪に埋もれようとしていた。

 それも――――おそらく七台ほど。宿屋の駐車場にまともな車はパトカー以外一つも残っていなかった。


「・・・・・・手の込んだ悪戯だな。暇な奴もいたもんだ」


 不幸な目に遭った宿屋の従業員と旅行客に心の中でドンマイと声を掛け、再び先を急いだ。

 どれほどの神業を持っていれば、人目を盗んで七台の車を短時間で分解できるのか少し気になったけれど・・・まあいいや。それより早く家に帰りたい。


 しばらく進むと駅周りのちょっとした建築物群を抜けて両側が開けた道路に出た。今度は消雪器具がなかったため雪は融けておらず、ザクザクと雪を踏みつけて進む。

 道路の周りはまばらに民家がならんでいるか、農地が広がっている。都会の、家の塀やビルが密集した景色と違い、視界が開けていた。


 この遠くまで平らな大地が広がっている感じ・・・懐かしい。


 雪をかぶった田んぼも、九ヶ月ぶりに見てみると風情が分かる。

 しかし、趣を感じていた景色も十分(じゅっぷん)見ていたら何も感じなくなった。風情ってなんだっけ?この道、ずっと真っ直ぐだから飽きるんだよなあ・・・


「ハァ・・・・・・・」


 また無駄にため息を吐いて横の景色に向けていた視線を前方、進むべき道に戻す。僕が訪れる前に車が通ったのか、タイヤの跡が綺麗に遠くまで続いていた。





 遠くまで見えるものだから、余計なものまで見てしまった。





 赤いマフラーが落ちていた。道路の真ん中に。緩やかな下り坂の途中だった。少し先で傾斜はなくなり水平になるのだが、遠くに伸びる道路の途中、降りしきる雪のむこうにうっすら人影が見える。

 マフラーは汚れていなかった。車に踏まれて黒くなっていない。雪もあまり積もっていない。落とされてから時間はそこまで経過していないようだ。


「あの人が落としたのか?」


 マフラーを届けに行くか迷う。遠くと言っても、そこまでの距離ではない。ゆっくり歩いているようだから、走れば割とすぐに追いつくだろう。あの人のものでなくとも、そこら辺のガードレールか何かに巻き付けておけばよい。


「よし。」


 落とし物のマフラーを拾って駆け出した。マフラーは赤と黒のチェック柄であった。

 キャリーバッグにはそこまでものを入れていないから重くはない。しかし、荷物を抱えたまま雪上を走るのはかなり疲れる。呼吸が荒くなり、体が熱くなる。


 ・・・しんどい。変な親切なんて思いつかなければよかった・・・新雪だけに・・・ていうか、体力落ちたなあ・・・今からでもこのマフラーほっぽり出すか?でも一度決めたことやめるのもなあ・・・


 必死に雪上を走りつつ、自分の行いに対して適当なコメントを心の中で呟く・・・昔から、こういう変なお節介をすることが多かった。落とし物を届けたりだとか、同級生の雑用を手伝ったりだとか、物を貸したりだとか、相談に乗ったり・・・とにかく、他人を助けることが多かった。

 一部を除いて、多くの人は僕のそんな行動を「優しい」だとか「立派」だとか評していたけれど、僕自身は自分をそんな過大評価していない。というより、彼らの評価はむしろ、全く的外れである。僕の本質を理解出来ていない。


 僕の「他人を助ける」という行為には、「他人を慮って」といった感情は一欠片も無い。

 僕が他人を助けるのは・・・他人以上に優先すべきものが自分には無いからだ。


 例えば、僕には自分の好きな物が無い。好きな食べ物も好きな音楽も好きな絵も好きな本も好きな学問も好きな遊びも好きな場所も無い・・・思い付かない。

 同時に、僕には嫌いな物が無い。嫌いな色も嫌いな季節も嫌いな味も嫌いな動物も嫌いな教科も嫌いな人も無い。


 そんなことが有り得るのかと言われそうなことではあるが、事実であるからしょうがない。僕は徹底的に無感動な人間なのだ。「誕生日は何が食べたい?」とか「何が欲しい?」という質問には昔から、「何でもいいよ。君の欲しい物でいいよ。」と答えて来た・・・・・・他人からすれば、本当につまらないことこの上ない返答であろう。

 他にも、常人が持つ感性の多くが僕からは零れ落ちている。夢は無い。願望も無い。未来への希望もない。不安も無い。危機感も無い。この性格を変えようとも・・・思わない。

 そういうわけで、僕の中身は洞窟のように空っぽで空虚なのだ。そんな状態で「利己主義」・・・そうだな、あまり使いたくはない言葉だけれど、僕が「我儘」になったとしよう。

 自分のやりたいようにしてみよう・・・他人のことなど(ないがし)ろにして自分を優先してみよう・・・しかし、僕の思考はいつもそこで停止する。



 『僕のしたいことって・・・・・・何?』という具合に。



 つまるところ、僕には我儘になるための我が無いのだ。自分と呼べるものがない。自分の意思が無い。自分の願望が無い・・・・・・そんな、人間を構成するのに必須なパーツが抜け落ちている僕は、自身に価値が認められない。『自分は人間の不良品』・・・『人間の形をした人外』・・・何度自分の人間性を否定したことか。自己否定したことか。



 僕には人間としての価値が無い。


 だから、他人を助ける。


 自分と違って、自分の意思や願望を持っている他人の方が、価値があるように・・・美しいように見えてしまう。


 だから他人を助ける。


 他人よりも優先すべきこと、大切だと思えるものが僕の中には無い。


 だから他人を助ける。


 他人の願望を自分の願望と置き換えてしまう。


 だから他人を助ける。



 自分で言うのもあれだが、こんな動機で他人を助ける僕が「優しい」人間であるはずがない。優しい行動はしていても内実は優しくない。他人を慮って他人を助けるわけではないから。


 グダグダと回りくどいことを考えながら走っていると、次第に前の人の背中が見えてきた。雪の向こうに黒い上着を着ている姿が見える。


 ヒイヒイ言いながら真新しい新雪を突き進んで追い掛ける・・・激しく動いているせいか防雪の靴の中に雪が侵入してきてしまった。ぐちょぐちょする。気持ち悪い。

 やっとの思いで、声が届くだろう範囲まで追いつき、声をかけた。


「おーい。そこの人!」


 立ち止まって、うつむき、膝に手をつく。あー・・・疲れた


 ・・・そういえば、なぜこのマフラーは道路の真ん中に落ちていたのだろう?雪道を歩いている時ふとしたきっかけで落としたならば道路の端、つまりは歩道の上に落ちているのが普通だ。今日は風も強くないから飛ばされたわけでもないだろう。

 さらに言えばこんな、雪の降っている寒い日であればマフラーをちゃんと首に巻き付けておくのが普通だ。落としても首が寒くなりすぐに気づく。


 学校から家に帰る時、激しく雨が降っていれば朝持って来た傘は教室に置き忘れない。教室を出るときは忘れていたとしても下駄箱で靴を履き替える時に「外で雨が降っている」ことに気づいて教室に置き忘れた傘を取りに行く。それと同じだ。


 これらの謎は、ご都合主義な「偶然」という説明だけで簡単に片付けられるものだ。例えば「偶然、マフラーを二つ持っていた。片方はつけていて、もう一方が鞄から滑り落ちた。そして偶然風が吹いて道路の真ん中に落ちてしまった」とか。そういう、なんでも言えてしまうありふれた疑問だ。


 実際、僕はそんなささいな問題、一瞬で忘却した。


 マフラーを渡すまえに呼吸を整えようと、大きく深呼吸する。


 そして、前を向き、追いかけている人を見ようとして




 凍り付いた。







 ザリザリザリ・・・






 こちらを振り向いたそれは黒いロングコート以外なにも来ていなかった。それだけならばただの露出狂だ。こんな雪の降りしきる天候の中そんなことをする奴がいたら、霜焼けにならないかその人が心配になるレベルだ。


 けれど、露出狂なんて生易しく感じてしまうぐらい、その様子は誰がどう見ても明らかに常軌を逸していた。




 ・・・・・・人の形をしていなかった。





 ザリザリザリ・・・ブルルン・・・ザリザリ・・・



 その人の胸、心臓や肺のある部分になにかの機械がめり込んでいた。


 それだけではない。


頭からコードが体中に伸びている。


 目玉は・・・電球?なにか明かりがついていて、その周りを照らしている。そのせいか薄暗いなかでもそれの全体像が分かってしまう。


 両腕がない。その代わり肩幅が異常に大きくなっている。コートの袖が横に突き出た肩からだらしなくぶら下がっていた。


 最もおぞましいのは下半身。


 黒い、自動車のタイヤが4つ・・・ついていた。タイヤが着いた四角い機械に、腹部から上がつながっていた。


 アンドロイドなんてものでは断じてない。人体の部分がちゃんとある。



 いみがわからなかった



「・・・・・・」


 絶句した


 霜焼けだろう。全身が真っ赤だ。そのせいか雪の中でも黒々と、していて・・・


 ・・・ザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリ


 その化け物がこちらに振り返ったときと同じ音を出して近づいてくる。


 車が雪上を走るときの音・・・重量が車より軽いからか音が少し高い。


「・・・・・」


 声が出ない、助けを呼べない、逃げたい・・・足が動かない・・・やばい


 心の中が、生まれてこの方感じたことがない恐怖に染め上げられる。



 ザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリ



 心臓の音がうるさい。呼吸が出来ない。どうする?どうする?どうする?どうする!!!



ザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリ・・・



 もう、すぐそこだ。



「!!?」



 声帯をしぼって、かすれた、叫び声なのかなんなのかよく分からない声を出して腕を頭の前で交差して防御の姿勢を取る。



 ザリザリザリザリザリザリザリザリザリ・・・ズシャッ・・・



「・・・・・・へ?」


 間の抜けた声が出る。


 化け物が・・・・・・止まった。



「た・・・てくれ・・・」


 化け物が喋った・・・人間の声だ。


「・・・たすけ・・・て、くれ・・・・・・なにも・・・みえない・・・かんじないんだ・・・」


「・・・・・・」


 なぜ気がつかなかったのだろう。

 歩道に、いや、道路全体に僕以外の人間の足跡がない。通りで「真新しい新雪」なわけだ。彼は「車輪」で「車道」を走っていたのだ。


 マフラーが真ん中に落ちているのも、そして、落としても拾えないのも納得がいく。

 急に止まった拍子に彼のロングコートが肩から少しはだけたようだ。その突き出た何かが外気にさらされていた。

 極端に大きい肩幅の正体は自動車のドアミラーだった。首から肩までは人間なのに、肩から先がドアミラーである。

 目はおそらく、自動車の前方のライトが使われている。

 頭頂部にセンサーのようなものがついていた。これで僕を認識しているのか?

 気味が悪いことに機械との接合部に違和感がない。血が機械と肉の間から流れていない。どうしたらこんなものが作れるんだ?


「・・・・・・」


 吐き気がこみ上げてくる。おぞましい。


 胸に着いていた機械はエンジンのようだ。ブルブルと震え、聞いたことがあるエンジン音がする。背中まで貫通しているようだ。排気管がそこから出ていた。排気ガスが冷えて白くなっている。

 機械の熱で肉が焦げたのか焦げた匂いもする・・・このエンジンが心臓と肺の機能を担っているのか?どんな技術だよ・・・


「自動車と人間を合体させる」


 自分が「人間らしくない」思考を持っているからだろうか?自然と、それを作ったやつの意図が理解できた。違う。わかってしまった。その、あまりにも「人間らしい」理由を。



 あまりにも、無邪気で、残酷な・・・



 勢いよく、首を振ってその考えを頭の中から追い出した。無意識に掴んだままであったマフラーを投げ出して、目の前の被害者に恐る恐る近づく。


「大丈夫ですか?」


 大丈夫なわけがないのにそんなことを言ってしまった。


「う・・・よかった・・・やっと人に・・・助かった・・・」


 その人は笑った。目が見えず、自分の状態が認識出来ていないからだろうか?笑える状況ではないと理解していない。長い間暗闇をさまよっていた中でやっと出会えた一人の一般人を彼は救世主だと思い込んでいる。

 僕に会えたというだけで、「助かった」と安心している。僕にはなにも出来ることはないのに。おそらく、病院に行っても彼の体は治らないであろう。


「一体なにが・・・?」


「わから・・・ない・・・車・・・を、運転・・・していたら・・・いきなり・・・」


少し息を大きくすいこんで、口を開けて、ある言葉を放つ、その瞬間



ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ



 電子音が彼の足下・・・タイヤの取り付けられた駆動部から響いて彼の言葉をかき消した。


「「・・・え?」」


 僕と彼の声が重なる。



「・・・リモート操縦モードに変更します・・・」



 感情のない電子音が彼に最後を告げた。



 ブロロロロ・・・ギャルルルルルッ!!!ザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリッ!!!



四つのタイヤが、後ろに高速回転する。



「え?あ?ぐえっ!!!・・・ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」



 彼の体は私の前方、道路の先に高速でバックしていった。


 ・・・ただ直線的に動いたわけではなかった。


 右に・・・左に・・・ぐねぐねと曲がる・・・・・・いきなりの停止、と思いきやまた急発進・・・ぐるぐるとその場で回ったかと思ったら、止まる・・・今度は逆回り・・・


 果てしなく、無駄な動きをしながら遠ざかっていく。



 ・・・・・・遊んでいるのだ。



 小さい子供が初めてラジコンを操作したときにやる、あれ。


 ひたすらに、スピード全開で。目的もなく、無茶苦茶に機体を操作してケラケラと笑う・・・


 あの、取るに足らない遊び。



 面白いから



 彼の体を機会と融合させた人間はそんな理由でこんな残酷なことをしたのだと直感する。



「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 彼は悲鳴が聞こえなくなるほど遠くに行ってしまった。


 彼の悲劇は続く。前、後ろ、左、右・・・・・・


 上体が慣性にあらがえずグニャグニャと曲がる・・・



 突然、道を大きく外れ、そこにあった木々の間につっこみ、闇に消えた


「・・・・・・」


 静寂だけが残った





















「ウキッ☆」




 瞬間、真っ黒で毛むくじゃらな手が背後から顔の左側に伸びてきた。



「ガッ!!?」


 もの凄い力で肩を組まれ、体を近くに引き寄せられる。


「ウキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャ!!!」


 なんだ?人じゃない?・・・・・・猿?


 その猿は僕の肩をバンバンと叩き、彼が消えていった林の方を右手で指さして、大爆笑していた。



 まるで「どうだ?面白かったろ?」とでも言いたげに。


 目が血走って真っ赤だ。楽しそうに大きな口を横にパックリと裂き黄色い歯をむき出しにして笑っている・・・「猿」が、声を上げて。

 林を指しているその右手に、なにかの箱を持っていた。


 コントローラー?これで彼を操っていたのか?


 真っ黒な猿だ。身長は僕より少し高いぐらい。大きい方だろうか?


 服のつもりなのかぼろ布を身にまとっている。


 特徴と言えばそれくらい。何の変哲も無い猿だった。


 ・・・その狂気を除いて。




「・・・ウキャキャキャ・・・ウゥ・・・キキキ・・・・」


 ひとしきり笑い終えて落ち着いたのか、フーフーと息を吐きつつ僕の方を向く。


「ウキ?」


 突如。右手に持っていた箱を地面に放り投げて僕の頭を両手で掴む。その顔を僕の顔面すれすれに近づけてくる・・・口臭が臭い。


 じっと血走った目で僕の顔を除き込む猿・・・


「ウーーーーーーーー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ウキャーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 しばらくうなっていたかと思ったら、今度は突然、僕を雪上に突き飛ばし両手を上空に勢いよく上げてけたたましく鳴き叫ぶ。


 ピョンピョンと小さくジャンプし、ガッツポーズをとる。


 さっきと同じだ。


 歯をむき出しに、品性のかけらもなく笑う・・・



 そう、人間のように



 ・・・なんだ?喜んでいる?なぜ僕を見て喜んでいるんだ?



 腰が抜けて立ち上がれない。



 全てが謎で、怖くて、逃げようとすら考えられず、言葉を発せずに、ただ・・・呆然としていた。











 グルリと猿がこちらを向く。












「ウキ☆」




 猿がまとっている布の間から鉄パイプだろうか?棒状のものを取り出す。



















 ゴキャッ


































 ・・・殴られたのか?目の前が暗い。




 ズルズルと、どこかに引きずられているようだ。




 なんだよ和哉(かずや)のやつ・・・俺も十分人間らしいじゃないか。





 こんな化け物と比べたら。




第二話終

次の話から魔法要素が加わります。というより、次を見ることで、1,2話に魔法要素が加わります。



ヒトなら猿もの

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