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22話「どうして親切にしてくれるの?」

「あの……パトリー?」


 私は、ふと気になったことを、思いきって尋ねてみることにした。


「何だ」


 靴の箱を整理しつつ、パトリーはこちらへ視線を向けてくる。


「どうして私に、親切にして下さるのですか?」


 リリエラのこの肉体は、美しくないことはない。目鼻立ちも、体型も、まさに可憐という感じだ。


 でも、性格は良くはない。

 自分の考えをはっきりと言ってしまったことだってあったし。


 けれどパトリーは親しくしてくれる。それに、口調は無愛想だが、いつもさりげなく助けてくれる。


 このままでは、いつか、友人と思えなくなってしまいそうだ。


 ほんの少し前まで、私は平凡な女子高生だった。モテモテだったことなんてないし、男子から親切にされたこともさほどないし。だからこそ、こんなことを続けていたら、本当にパトリーに特別な感情を抱いてしまいそう。アナが言っていたことが現実になってしまいそうな気がして、少し怖い。


「友だからな」

「友人だから……ですか?」

「そういうことだ」


 私が選ばなかった靴の箱を縦に積み、それを抱えて立ち上がるパトリー。彼は、抱えている箱の隙間から、私をそっと見つめていた。


「心配しなくていい。一つの屋根の下で共に暮らしたい、などとは思っていない」


 また出た。

 具体的な例をつけてくる言い方。


 例を言えなんて誰も言っていないのに、自ら例を挙げてくる。しかも、それが大抵、思っていないこと。この珍妙な現象は、妙と言わずして何と言えば良いのだろう。


「不思議な例ですね」

「……そうか?」

「はい。そもそも、普通は敢えて例を述べたりしません」


 するとパトリーは、微かに俯き、その面に呆れたような笑みを浮かべる。他人に呆れているというよりかは、自分に呆れたというような笑みである。


「そうか。それはすまない」


 彼は意外と素直に謝る。

 何だかんだ言い返してくるだろうと予想していただけに、彼がすんなり謝ってきたことは驚きだった。


「あ、いえ。謝らないで下さい。悪いと指摘しているわけではありません」

「そうなのか。……分かった。では私は、この箱を戻してくる。少し待て」

「はい。待っています」


 パトリーはまた退室していった。

 私は椅子に腰掛けてパトリーの帰りを待つ。


 室内には、私だけ。他にあるのは、椅子やテーブルのみ。心なしか寂しさを感じてしまうような空間。


 そんな中、私は考える。

 相談してみようか、と。


 というのも、こちらの世界へ来てから、まだ誰にも本当のことは話せていないのだ。


 女子高生だったこと。

 リリエラ・カルセドニーではなかったこと。


 とても重大なことなのに、いまだに誰にも打ち明けられない。そんなことを話したら、妄想と笑われるのではないかと不安で。


 話さずに生きてゆくことが幸福なのかもしれないと、時にはそう思うこともある。女子高生に戻るよりリリエラとして生きていく方がずっと楽しい、それはある意味、一つの真実だ。


 でも、現代日本には、残してきた家族がいる。

 家族が私のことを心配してくれているという保証はない。けれど、もし心配してくれていたとしたら、嬉しいけれど心苦しい。


 どうすべきだろう。

 懸命に考えてはみるけれど、答えはなかなか出せなくて、しまいに頭が痛くなってきた。


 そんな時だった——パトリーが部屋へ戻ってきたのは。


「どうした、リリエラ」


 戻ってくるや否や、彼は私に声をかけてきた。


「え?」

「体調が悪そうだが、どうかしたか」


 バレてる!?


 ……そんなに分かりやすかったのだろうか。


「い、いえっ。元気ですよっ」

「いや、元気な時はそんな反応はしない」


 それはそうだが。


「悩みか何かか?」


 パトリーは背を屈め、首をぐっと伸ばして、顔を近づけてくる。


「えっ……あ……」

「その反応は、悩みだな」

「そ、そんなことはな……」


 予想外に顔を近づけられたため、戸惑い、不審な反応の仕方になってしまった。普段通りにに発しているはずなのに、声が震えてしまっている。


「いや、間違いなく悩みがある者の反応だ」


 少し空けて、彼は続ける。


「言ってみろ。何だ」


 パトリーはそう言ってくれた。だから私は、勇気を出して打ち明けてみようと決意する。無論、迷いや不安が消え去ったわけではないけれど。


「実は、その……出身の話なんですが……」


 どう切り出すべきか分からなくて、こんな言い方になってしまった。


「出身? 何だ?」

「私……実は、少し前まで、リリエラではなかったんです」


 勇気を出して述べる。

 するとパトリーは、眉を寄せ、怪訝な顔をした。


「……何を言っている?」

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『奇跡の歌姫』も連載中です。
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