表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/32

19話「良くなってきたみたい」

 私は、その後もしばらく、パトリーと二人で話をした。


 パトリーは先日ローズマリーから手紙を受け取ったらしい。そこには、私のこと——しかも悪いことが書かれていたと、彼は言う。


 さらに、それだけではなく。

 リリエラが屋敷へ押しかけたと聞いたが何もされなかったか、というようなことも書かれていたそうだ。


 そんな滅茶苦茶な内容の手紙を受け取ったパトリーは、ローズマリーへ返信を出したらしい。そこには「リリエラが押しかけてきたわけではない。こちらが招いた」と書いておいてくれたらしい。パトリーからそのことを聞き、私はホッとした。


 パトリーからの返信にそれが書かれていれば、ローズマリーも受け入れざるを得ないはず。たとえ、どんなに思い込みが激しいとしても。



 そんな話を済ませた頃には、夕方になっていた。

 日はまだ落ちていないものの、窓の外の色は徐々に変わり始めている。


「長居してすまなかった」

「いえ……お話聞かせていただけで良かったです」


 発した言葉に偽りはない。

 緊張はしてけれど、彼と話している間だけは疲れを忘れていた。


「体調が回復したら、また私の屋敷へ遊びに来てくれ」


 おっと、妙に積極的だ。

 嬉しいような嬉しくないような……よく分からない気分。


「あ、はい。お誘いありがとうございます」

「手紙で連絡、それで構わない」

「分かりました。また連絡させていただきますね」


 そう返すと、パトリーはふっと笑みをこぼす。


「今度はリリエラが書いた手紙を送ってくれ」


 言われた直後は、その言葉の意味がさっぱり分からなかった。が、数秒してから、そこに潜む意味を理解した。


 風邪を引いたと伝えたあの手紙。

 あれは、アナに書いてもらったのだ。


 パトリーが言っているのは、多分、そのことなのだろう。


「あ、はい。そうですね。次からは私が書きます」

「楽しみにしている」


 好意的な発言をしてもらえるのは嬉しいことだ。



「良かった! だいぶ良くなられましたね!」

「ありがとう、アナさん」


 パトリーがお見舞いに来てくれた日のよる、私は急激に体調が良くなった。

 身体は軽く感じられるようになり、ぼんやりしていた頭の中はすっきりして。視界も一段階明るくなったように感じられる。


「顔色ももうすっかり元通りですね!」

「そうですか?」

「はいっ。そう見えます!」


 最初は気のせいかと思ったが、アナも私の様子の異変に気づいていたため、単なる気のせいではないのだと分かり安心できた。


「あのお方のおかげですかねー?」

「え。その言い方は何ですか、アナさん」

「いえいえ、何でもっ。ただ、恋は素晴らしいことだなぁって、そう思いまして」


 アナはニヤニヤしながらそんなことを言う。


 もしかして、だが、彼女は、私とパトリーの関係を勘違いしているのではないだろうか。


 私たちの関係は友人。

 それ以上のことはない。

 けれど、アナには、それ以上の関係に見えているのではないだろうか。


 ……だとしたら、何とも言えない気分だ。


「こんな夜にはルーゾピップティーですね! 恋の熱がさらに高まりますよ!」


 やはり、私の予感は当たっていそうな気がする。


「恋の熱なんて……私、使いません」


 一応言っておく。

 するとアナは、顔に困惑の色を浮かべた。


「どうしてですか? 恋をなさっているというのに?」


 いや、だから、そうじゃなくて! そもそも恋なんてしてないから!


 大きな声で言ってやりたくなったが、それは堪えた。

 緊急時でもないのにいきなり大声を出すなんて、はしたないと思ったから。


 だからこそ、私は静かな声を意識しながら問いかけてみる。


「……私は恋をしているように見えますか」

「はい! 見えますよっ!」


 アナは即答。

 誤解されているのではと薄々感じてはいたが、まさかここまで誤解されきっているとは思わなかった。正直驚きだ。


「ではでは、ルーゾピップティーお持ちしますね!」

「ちょ、少し待って下さ……」

「淹れて参りますので、しばらくお待ち下さい!」

「えぇー……」


 アナはそそくさと離れていってしまう。私としては少し待ってほしかったのだけれど、そんな私の心は、彼女には伝わらなかったようで。私の言葉選びが悪かったのだろうが、それでも、思いが届かず残念だ。


 だが、アナも悪意があってこんな振る舞いをしているわけではないはず。むしろ、好意ゆえだろう。


 だから私は、何も言わないでおくことにした。

 アナを傷つけることにならないように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『奇跡の歌姫』も連載中です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ