表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/32

14話「いじめていない」

 ローズマリーの兄、ラペンター。

 これまた厄介そうな人だ。

 兄妹の関係ゆえ仕方がないとはいえ、ローズマリーの言葉のすべてを無条件で信じている男と話をするのは、どうも気が進まない。


「君はパトリーという男と組んで、僕の妹のローズマリーをいじめたそうだね」

「私はいじめていません」


 近い両目でジロリと見られると怯みそうになってしまう。だが、怯んで何も言い返せなければ、それは彼が言う罪を認めたことになってしまいかねない。


 それだけは困る。


 犯していない罪を犯したかのように言われるというのは、私の中の嫌なことランキングでは、かなり上位に食い込む。


 というのも、現代日本で暮らしていた頃、そういうことがよくあったのだ。


 良心で言ったことが嫌みであるかのようにねじ曲げられたり、さらにそれを無関係な者にまで言い広められたり。

 そういった類いの揉め事に、なぜか私はよく巻き込まれた。


 だから、犯してもいない罪に関して第三者からどうこう言われることは、今でも嫌なのである。


「せっかく美しいのに、性格ブスは勿体ないよ!」

「相手に直接性格ブスなどと言うのは、どうかと思います」

「あんなに可愛いローズマリーを傷つけたんだ! 性格ブスというのは事実だよ!」


 ラペンター、彼はとことん失礼な男性だ。


「少し待って下さい」

「んふぁ?」

「ローズマリーさんはどのようにしていじめられたと仰っていましたか」


 いじめた。いじめていない。それを繰り返し続けていても、主張し合うのが永遠に続くだけ。何の進展もない。


「もし良ければ、教えていただけませんか」


 するとラペンターは、鼻息を荒くしながら「あぁ! いいさ! もちろん!」と言った。それから、ローズマリーから聞いたことを話し出す。


「誰の目にも明らかな嘘をついているにもかかわらず、嘘をついていることを認めず、狂人を見るような目で見られた! これがローズマリーの一つ目の主張だ!」


 信じたくないことはすべて「嘘だ」と言って聞かないのが、ローズマリー流。その配慮のなさに苛立っていたことは確かだ。


 けれど、彼女の主張は、やはり完全な真実ではない。

 だから私ははっきり告げた。


「ローズマリーさんのその主張は、事実とは言い難いものです」


 ラペンターはローズマリーの味方だ。だから、彼もまた、私の言葉をすんなり信じてはくれないだろう。


 だが、それでも言いたい。

 ローズマリーの発言は真実ではない、と。


「まず、私は嘘をついてはいません」

「嘘をついていないだと? なぜそう言える! ローズマリーは『誰の目にも明らかな嘘』と言っていた!」


 ラペンターは自信満々だ。


「私がローズマリーさんとお会いした時、部屋には二人だけで、他には誰もいませんでした。なのになぜ、ローズマリーさんは『誰の目にも明らかな』と仰ることができるのでしょうか」


 無関係な誰かも一緒に話していて、その誰かも「リリエラのあの発言、嘘よね」と言っていたのなら、「誰の目にも明らかな」と言っていてもおかしくはないだろう。


 だが、あの場には私と彼女しかいなかった。

 だとしたら、彼女以外で私の言葉を嘘だと感じたのは、一体誰なのか。ローズマリーの勝手な解釈ではないのか。


「うぐっ……。だが、ローズマリーには嘘と感じられたのだろう! 感じ方は皆違うものだ!」

「ということはつまり、ローズマリーさんはご自分の感じ方だけで『誰の目にも明らかな嘘』などと仰ったということですか」


 私が淡々と言い放つと、ラペンターは渋柿を食べたような顔つきになりながらも返してくる。


「細かいところはいい! それよりも、『狂人を見るような目で見られた』という部分の方が問題だ!」


 おや、話の筋を変えてきた。

 どうやら、『誰の目にも明らかな嘘』という部分について争うことは諦めたようだ。


「僕の可愛い妹ローズマリーを狂人を見るような目で見るとは! 寛容な僕も、さすがにそれは許せないよ!」


 ラペンターは鼻息を荒くしながらそんなことを言ってくる。

 やや興奮状態にあるようだ。


「その部分は、かなり誇張なさっていると思います」

「ローズマリーの美貌を嫉妬しての視線か!?」

「落ち着いて聞いていただきたいのですが……私はそのような思いを持ってローズマリーさんを見たことはありません」


 面倒臭いなぁ、とは思っていたけれど。


「ふ、ふん! まぁいい! ローズマリーの主張は他にもある!」

「そうなのですか」

「あぁそうだ! ローズマリーは僕を頼ってくれている。だからこそ、僕が、このラペンターが、君ときちんと話さねばならない!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『奇跡の歌姫』も連載中です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ