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平凡女子高生、美少女に転生する。〜夜会で出会った彼は、蜘蛛好き〜  作者: 四季


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10話「皮膚は綺麗」

 翌朝、爽やかな木洩れ日が差し込む客室で目覚めた私は、寝巻きからワンピースへと服を着替え、部屋を出た。


 しかし、どちらへ進めば良いのか分からず立ち止まってしまう。

 屋敷内の構造には、まだ慣れていないのだ。


 現代日本にいた頃の家はさほど広くはなかった。そのため、私の記憶力でも、家の中で迷うなんてことはなかった。だが、こちらへ来てからは苦労することが多い。リリエラの家といい、ここの屋敷といい、大きい家が多すぎるのだ。


「あのぉ」


 どちらへ進むべきか悩んでいると、一人の女性が声をかけてきた。


「少しいいかしらぁ」

「え? あ、はい」


 線のような目、団子のように丸い鼻、輪郭の曖昧な唇。ぱっとしない容姿の女性だ。ただ、肌だけはとても美しい。他と違和感が生まれてしまうほどに綺麗な、つるんとした皮膚である。


「昨夜ねぇ、あなたのところにパトリー様が訪問していらっしゃるところを見かけたのぉ」


 話した記憶はない女性だが、妙に馴れ馴れしい話し方をしてくる。

 粘つくような声は、正直、苦手だ。


「えと、貴女は……?」

「あたしはこの屋敷で働いて働いているのぉ。つまり、使用人? 侍女? なんていうか、そんな感じぃ」


 確かに、よく見てみると、この屋敷で働いている女性たちと同じ服装をしている。


「パトリー様をどうやってたぶらかしたのぅ?」


 そんなことを言いながら、にやりと不気味な笑みを浮かべる女性を見て、ゾッとしてしまった。

 同じ女性であっても怖い。

 得体の知れない笑みの浮かべ方が不気味だ。


「パトリー様はぁ、女の人には親しくしないのよぉ。ずっと昔、まだ子どもでいらっしゃった頃からねぇ」


 出た、私は昔から知ってますアピール。


「でもでもぉ、貴女には自ら関わりにいってらっしゃるのよねぇ。不思議で仕方なくってぇ、噂になってるわよぅ」


 厄介な人に絡まれてしまった。

 走って逃げたい衝動に駆られる。でも、それはできない。

 心のままに逃げたりなんかしたら、きっと悪い噂を広められてしまうだろう。そんなことになったら救いようがない。


「ねぇ、彼に何をしたのぅ?」


 女性は粘ついた声で問いながら、両手で正面から私の肩を掴む。そして、急激に顔面を近づけてくる。


「教えてくれなぁい? 凄い気になっててぇ。教えてほしいのよぅ」

「私、何も……」

「そんなことはあり得ないわよぅ。だってぇ、それが真実ならパトリー様が自ら会いに行くはずがないものぉ」


 どうやら彼女は、どうしても、パトリーをたぶらかす方法が知りたいようだ。


 でも、私に聞いても無駄である。

 だって、たぶらかしてなどいないのだから。


 けれど、もし私が「たぶらかしていません」と言っても、彼女は信じてくれないだろう。嘘つきと思われるだけに違いない。なんせ、彼女は私がパトリーをたぶらかしたと、心の底から信じているのだから。


「高級蜘蛛を貢いだとかぁ? 褒めちぎったとかぁ?」


 顔が近い、顔が。


「ねぇねぇ答えなさいよぅ。答えないなら、あることないこと言い触らしてや——」


 女性が眉に力を加えた、その瞬間。


「何を言い触らす気か」


 淡々とした声が飛んできた。

 振り返ると、そこにはパトリーの姿。


 ナイスタイミング!


 女性は、パトリーの姿を目にした瞬間ぎょっとして、速やかに私から離れる。

 それと同時に、パトリーはすたすたと前進。私と女性の間に入ってくれた。


「あることないこととは何だ」


 パトリーは女性を睨んでいた。


「え、え、えぇー? そんなこと言いましたかぁー?」

「先ほど、確かに聞こえた」

「え、えぇー、うそぉー、気のせいですよぉー」


 パトリーに睨まれることに耐えきれなくなったのか、女性は、作り物の笑みを浮かべながら遠ざかってゆく。

 女性がそそくさと去っていくのを確認した後、はぁ、と溜め息をつくパトリー。


「ありがとう、パトリー」


 私は彼に礼を言う。

 するとパトリーは、くるりと体をこちらへ向け、「何かあれば私に言え」と返してきた。


 あぁ、嫌だ。

 こんなに親切にされたら、胸の奥が熱くなってしまう。


 私はこれまでの人生で男性に優しくされたことなんてない。酷い目に遭わされてきた、というほどではないが。ただ、私は異性と縁がなかったのだ。

 そんな私だから、少し親切にされたくらいで動揺してしまうのだろう。


 ——その時、ふと思い出す。


 恋をして、それが実れば、元の世界に戻ることができる。

 そう言われていたことを。


 リリエラとして生きてゆく方が幸せなのではないかと思う部分もあって。けれど、実の親たちが心配してくれているかもしれないから戻らなければ、という思いもある。


 どうすれば良いのだろう。

 そんなことを考えていたら。


「リリエラ」

「……あっ。はい」


 パトリーに声をかけられた。


「貴女も朝食か」

「はい」

「私もだ。ついでに一緒に行かないか」

「はい。そうしましょう」


 こうして私たちは、朝食をとるべく、二人並んで歩き出す。

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『奇跡の歌姫』も連載中です。
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