保存食
僕や幹部らがやっている遠征だけど、刀たちには参加させていない。
今のところ、刀たちを呼ぶ必要が無かったこともあるけど、遠征するなら食料を用意してあげた方が良いからだ。
遠征に持って行く食料。僕らはそれを保存食と呼ぶ。
保存食。
深く考えないで古式の物を言うなら、塩漬けの、乾燥させた食品を現地で水に浸け戻して食べるのが一般的だと思うけど、残念ながら塩事情が僕頼りの現状では用意できないものでしかない。
現代人の僕にしてみればレトルトや缶詰・瓶詰なんかが思い浮かぶんだけどね。
可能なら僕が持ち込んだものを食べさせるのが良いと思うんだけどね。
ただ、それをやると僕の負担がまた増える。
金銭的なものは大したことないけど、持ち込み時の重量的に。
なんだかんだ言って、持ち込み品の総重量は100㎏近い。僕の筋肉はどんどん成長していくよ。
そうなると保存食は自作したい。
でも塩が無いから難しい。
乾燥させるだけなら日干しにするだけでもいいんだろうけどね。腐らせない確信が無いんだよ。
塩漬けなら発酵で済むって考えるのは素人考えなんだろうけど、素で成功させられる自信が無いってのが自覚できるだけまともだと思うよ。
「と、いう訳で。かなりリスクの高い実験をするよ」
「何をするんでしょうか?」
「瓶詰のお肉が腐るかどうかの実験」
とりあえず、やれることを一つ試してみようと思う。
すぐにできる事としては、僕が持ち込んでいる食料のうち、瓶詰の保存食を詰め替え、再利用できないか試すというものだ。
味は二の次として、まずは腐るかどうかを確認したい。
猪肉を少量入れ、密閉し、しばらく加熱して、あとは常温で3日放置。これで食べられる肉が残せるかどうかを確認する。
そして3日経過。
「じゃあ、開けるよ」
毒見をさせる気は、さすがに無い。見た目がヤバければそのまま廃棄するつもりだ。
比較用に火を通して同じ環境で放置した肉も用意したけど、こっちは臭いでアウトと判断できた。ゴブリンの中にはそれでも食べたそうにしている奴がいたけど、もちろん食べさせずに廃棄している。
僕は瓶のふたに力を入れ、中身を開放する。
そして中から出てきたのは――まだ食べられそうなお肉。
火が通り過ぎているとか、細かい問題はある。が、食べても問題なさそうな肉が出てきた。
「じゃあ、食べてみたい奴」
「「「ギュイ!!」」」
見た目と臭いに問題が無ければ、試食もアリだよね。
僕は希望者を募り、その中の1匹に大丈夫そうか確認してもらう。欠食児童っていう訳ではないけど、ゴブリンたちは食欲旺盛で食べ物にはすぐに食いつくので選び放題だ。
食べさせてみても問題はなさそうで、これなら瓶詰は保存食の選択肢として使えそうだ。
瓶詰だけで遠征中の食料を全て賄えるわけではないから、他の保存食も考えないといけないけど。最悪の場合は全部瓶詰でもなんとかなるように持ち込む物を選ぶことを考えよう。
あと、出来そうなのは……ドングリ粉で作れる料理を教えるとか?
粉物の要領で何とかならないかなぁ?
できれば保存しやすい根菜類を見付けたいよなぁ。使える食材が少ないのも僕らの弱点だ。
数年がかりの大事業になるけど、こっちで野菜を増やすのは……無いねー。
あんまり詳しくないけどさ、野菜や果物って、種を取っておいても同じものができる訳じゃないんだよね? 世代が経つほどに劣化するって聞いた事がある。
そんな事をするなら、普通にこっちで食べられそうなものを探す方が建設的だよ。




