刀は鍛えられている
冒険者ギルドのギルドマスターに聞いた情報を基に、僕は○イッターでの、自身の評判を調べてみた。
>わざわざ殺しに行くとか、マジありえない。そのまま引きこもってればよかったのに
>殺さなくても、もっと他にやりようがあったのでは?
>殺された人の家族が可哀想
もちろん、僕の事を悪く言う人はいる。
しかし。
>その場合は拉致られて殺されて終わりだろJK
>正当防衛だろうが。そもそも犯罪者に人権無し
>殺しに来た連中を生かしておかなきゃいけない理由って何?
僕を擁護するコメントの方が、どちらかと言えば多かった。
――直接関わりがある連中は冷静な目で君を見れないものだよ。
――全く関係の無い連中の、第三者の声を聞いてみたらどうかな?
ギルドマスターが僕に言った言葉の意味がなんとなく分かる。
自分の周りだけの、小さな世界の声だけを聴いていれば押しつぶされる。
でも、もっと広い世界の声を聴いていれば、抱えた重さが実は大した事などないと気が付かされる訳だ。
実際、近くから聞こえてくる声は悪意や棘があり、僕は自分で買い物に行くことすらできなくなっている。しょうがないので、ネットスーパーの密林さんに買い出しをお願いしている状態だった。
リアルにも数少ない理解者が居てくれたが、オーヴァーランダーに、ゴブリン達に癒されなければ僕は自殺を選んでいたかもしれない。それほど追いつめられていた。
こうやって自分の行動が大きく間違っていないって言われると、少しホッとするよ。
アタック53回目。
最近は猪の子供を育てていたりと、家畜産業が大変な仕事として負担が増している。
そこにもう一つの大負担がかかる。
義姫や、捕虜ゴブリンが出産したのだ。
出産数は4匹だが、生まれた子供は19匹。いろいろ突っ込みたいが、多産はゴブリンの習性なのでそんなものだと割り切るしかない。
なお、一番多かったのは義姫の7匹である。
こうやって子供がたくさん生まれるならオッパイが複乳になると思うんだけど、ゴブリンのオッパイは人間と同じ、左右に一つずつだ。×2も×3も無い。
そこはまぁ、ゲーム的なサムシングが生物学を無視して補正をかけているんだろうね。
正直、どうでもいい話である。
これで僕らは主力6匹に加え、刀が20匹まで増え、更に子供が19匹の大所帯になった。
刀はあれからも集落を潰しては適当に増やしていたのでここまで増えたのだ。
出産のときは産婆も何もいなかったので、僕が中心になって子供を取り上げることになった。
出産予定日が近くなると、事前にネットで情報を仕入れて色々と物を揃えて心の準備を済ませていたわけなんだけどね。僕は別に産婦人科医の見習いの人でもないので、かなり怖かったよ。特に首の座っていない赤ちゃんを引っ張り出すとか、マジ勘弁してくださいとか思ってた。出産するついでに握りつぶしそうになった気もする。
でも、子供は全員無事に生まれ、僕は胸を撫で下ろせたわけだ。
で、≪出産補助≫なんてスキルが手に入ったよ。
……普段はほぼ使い道のないスキルなんですけど? もっと子供を産ませろと?
もっと普段から使える、汎用性の高いスキルが欲しかったです。
僕はそんな感じだけど、刀の中には≪調教≫スキルという、猪を飼うのに役立ちそうなスキルを覚えたのが出てきた。
ついでに、≪日本語≫スキルを覚えた奴も2匹出てきた。
有用なスキル持ちという事で、幹部候補として取り立てている。
それぞれ、名前を『斉藤弥九郎』『千葉周作』『園部秀雄』と付け直した。
斉藤弥九郎は練兵館の創立者で神道無念流の人。
千葉周作はその弟子。高弟と言っていいね。師匠より有名のような気がする。
園部秀雄は女性武道家。薙刀の人だけど、生涯で敗北はたった2回と、明治最強の女性とも言われてる人だ。
名前を呼ぶ時は「弥九」「周作」「秀雄」となる。
現状は初期6匹の下、刀の上で、中間管理職かな? それとも幹部補佐? とにかく下のゴブリンの希望となってもらう訳ですよ。頑張れば上を目指せるよ、って。
でも中間管理職って言うと、胃の痛くなる立場って思っちゃうのはどうしてだろうね?
この子たちはああなりたいと、そう思ってもらえるかな?




