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オーヴァーランダー  作者: 猫の人
若鳥オーヴァーランダー
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日常の崩壊(後)

 もしかしたら、罰が当たったのかもしれない。



 僕はダンジョンで多くのゴブリンを殺してきた。

 戦えるゴブリンだけでなく、戦えない、非戦闘員ゴブリンも多く殺している。


 少なくともその事に後悔は無いし、同じ状況なら同じように振舞うだろう確信が僕にはある。


 ただ、殺し殺されという状況に慣れすぎたのかもしれないと、そんな気がするのだ。





 嫌がらせが激化して8日ほどたった。


 オーヴァーランダーでは、ホームに家畜候補の猪がようやく3頭やってきた。

 最初の方に見つけた子連れ猪を仕留めた卜伝が猪の赤ちゃん、うりぼうを3頭確保したのだ。

 子供の頃から調教すれば、きっといい家畜に育つと思うよ。


 あとは拠点その2が完成したことぐらいかな。

 その他の大きな変化は特になし。


 あ。集落3つ目を殲滅するようになったから、1回の入手EPが700Pまで増えたのもいい変化だよね。

 そっちが順調だったから、リアルがどれほどキツくても僕は気にならなかったんだ。





 そんな風に僕が折れないから、嫌がらせはとうとう直接的な手段に出るようになった。

 いや、もう嫌がらせの範疇にないね。

 僕の家に、火を付けられたのだ。


 放火は殺人と並んで、日本でも数少ない「死刑」対象の犯罪だ。日本の法律では、その他の犯罪で死刑は求刑できないシステムになっている。

 つまり、相手も最後の一線を越えようとし始めたのである。


 しかし僕の家はセキュリティがしっかりしていて、無線だけでなく地下のケーブルで監視カメラが周囲を録画するようにしているし、もしもカメラとの通信が途切れれば、すぐに警備の人が来るように契約を結んでいる。もしカメラが火を見つければすぐにアラームが鳴るし、場所によってはスプリンクラーが消火するようになっている。だから放火が成功することはまずありえない。

 実際、火はすぐに消し止められたし犯人はすぐに捕まった。僕が家にいる時を狙われたので、犯人を投網で捕まえることに成功したっていうのもある。



 そして放火犯を引き渡した翌日の夜。

 この日があれから8日目だったのだが、家に不法侵入者が現れた。


 侵入者はフルフェイスに革の来だースーツを着た6人。

 更に外に4人が待機し、車はライトバン1台セダン3台の4台。

 相手も本気で、多少の証拠が残ろうがお構いなしの博打に出たみたいだ。

 門を乗り越え、玄関のカギを壊して家に侵入してきた。


 僕はホームセキュリティの警備会社に応援を要請し、自身も迎撃に出ることにした。

 普通なら籠城して時間稼ぎをするんだろうけど、上手くやる算段があったので打って出た方が良いと考えたんだ。





 相手は6人いたけど、民家っていうのはそこまで広くない。

 僕はスコップを手に廊下で迎え撃つ構えだけど、スコップは盾のつもりで持っている。振り回すスペースが無いのでスコップでは突くぐらいしかできないし、バールなんかも以下同文。まぁ、長さを活かした戦い方ができるならいいんだけどね。

 そもそも相手が拳銃などを持っていればそれだけで詰みになりかねないんだけど。


 だから僕はまず、銃が使えないようにすることにした。

 玄関のスプリンクラーを起動して相手をびしょびしょにしてみせた。拳銃は防水性能が低いからね。雨の中では使えないんだよ。使っても壊れたりする可能性がとても高い。

 軍用の一部の拳銃には通用しない手段だし水の中でなければ、水を振り払うだけですぐ使えるようになるわけだけど。



 そうやって相手の妨害をしつつ、次の一手。

 家の中にあるアラームをすべて鳴らし、相手の耳を奪った。


 僕はスマホを使えば監視カメラで相手の行動を把握できるし、耳が聞こえないぐらいどうとでもなる。


 そうやって相手の行動を阻害し、奴らが2階に上がって行くのを待つ。 

 僕は普段2階にいるので、こいつらも2階に行くと予想していた。



 話は唐突に変わるが、20年以上前に人気を博したアメリカの子供が一人で留守番をする映画をご存じだろうか?

 子供が罠を使って泥棒2人を返り討ちにするあれだ。

 僕は父さんにその映画を、続編も含めて見せてもらったのだが、あの映画をかなり気に入っているのだ。

 そのトラップの一つに――



 標的が2階の階段を上り始めた。玄関からすぐに見える場所に階段があったのですぐだ。

 ゆっくりと、手すりを掴みながら、足音を立てずに――ではない。勢い良く、銃を手にして、駆け上がるように。

 一刻も早く僕を捕まえようと4人が一度に階段上に行ったところで。


 階段が、斜めになった(・・・・・・)


 一度に全部の階段がそうなったわけではなく、上の方が急に横から斜めになったのだ。

 慎重に上っていれば回避できたことであろうが、勢いは止まらない。先頭の男が足を滑らせ、後続を巻き込みながら落ちていく。男4人が階段の下で積み重なった。



 僕はそのタイミングで飛び出し、残っていた男2人を襲う。

 落書き対策の白いスプレーを使って視界を奪い、相手がこちらを視認できなくなったところでスコップを使い、ボコボコにする。

 ゴブリンにそうしていたように、最後は喉を踏み抜き(・・・・・・)、とどめを刺した。


 それが終われば階段下の連中の片づけで、僕は一切の容赦をせず、方法は違うが残る4人も片づけた。



 外の連中が騒ぎだすが、僕は玄関の対訪問販売員用のロックをかけ、2階に逃走。時間稼ぎを選択する。あとは警備会社にお任せだ。





 長い夜が明ける。


 あのあと、しばらくしてから警備会社の人がやってきたので、犯人たちは残らず捕まるか回収されることとなった。

 僕は何とか生き残り、無事ではないけど助かった。荒らされた家の中の惨状を見ると泣きそうになるけど。


 侵入者のうち2人が死んだけど、状況が状況だけに過剰防衛ではなく正当防衛が認められ、僕は晴れて無罪。



 ……無罪だけど、問題が無いわけじゃなかった。

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