捕虜の懐妊報告
信綱たちはポットにレンガに、焼き物に忙しいから猪の捕獲には手を出さない。
狩人である義輝の手を借りれないのは痛いだろうけど、そこは蔵人と卜伝の2匹に頑張ってもらおう。刀の5匹を使ってもいいしね。
織物の方はすぐに手が止まるわけだし、今は他の仕事を頑張ってもらおう。
今のうちに綿花の木を数本確保して刀に集めさせた土で根を隠し、あとはポット待ちってところまで準備をして今回は終了。
ドローンの練習はちゃんとできたけど、綿花栽培に畜産にと、終わった課題よりもこれからの課題ばっかり増えちゃったねぇ。
アタック40回目。
今回も3日かけて襲撃や拠点その2の設置とか、やるべきことをちゃんとやった。
僕はドローンで拠点その2の周辺調査をしたけど、6㎞ぐらい先にゴブリンの集落を見つけたのが一番の発見だね。
ゴブリンの足では往復5㎞ぐらいが日帰りで動ける範囲なんだけど、前々回の接触は本当に微妙なラインだったみたいだよ。
気になったのは、そのゴブリンの集落があんまり発展していない事。
僕らが普段潰している集落は石器を使っているし、火を使って調理することも覚えている。なのに、この集落では石器や火を使っている形跡が無いんだよ。あきらかに文明的に劣っている。
僕らと接触している回数、殺された回数、そのあたりがネックになっている可能性もあるけど、それが分かってどうなんだって話なんだよね。偶然の可能性もあるし。
これも一つの情報としてネットに流しておくかなぁ。
余談ではあるけど、ドローンに物を上から落とすための機能は無いんだよね。それがあれば集落の上から催涙弾投下とかできるのに。
本当に残念無念だよ。
強行軍で拠点その2から戻ってきた翌日は、みんな疲労困憊だ。
無理をするといい事は無いので、午前中は休憩に使っている。
その休憩中に、誾が来た。
「長様。捕虜の懐妊が確認されました」
「お。結構早かったね」
「それがどうも、捕獲する前から妊娠していたようです」
「へぇ。何かと都合のいい話だね。
ん? もしかして不味いかもしれないのかな」
「はい。産まれた子供が我々に従うかが不透明です」
休憩中だというのに、誾はこっちに残った義姫と情報交換をしていたみたいだ。勤勉だね。
で、報告内容は捕虜ゴブリンの妊娠か。本来なら嬉しい報告なんだけど、親次第では嬉しくない話になるのかな?
もっとも、殺処分でEP稼ぎが出来るなら無駄じゃないし、悪くは無いかな。
いや、親は関係ないか。僕らの言う事に従ってくれるなら親がだれかなんてどうでもいい。欲しいのは労働力なんだから、細かい事は気にしなくてもいいよね。
「誾、報告ありがとう。
誾がこうやって動いてくれるから助かるよ」
「勿体無いお言葉です」
他にも僕は誾から刀の作業の進捗具合とかを教えてもらった。
報告が終わったところで僕は誾に労いの言葉をかける。
こういった事はたまにでもいいから言葉にしないと、コミュニケーションエラーで人間関係が壊れるからね。家族とか、それでギクシャクするなんてよくある話なんだよ。
誾は僕の言葉に頭を下げる。
その言葉のニュアンスに、僕はちょっとした棘を感じた。
誾は何度か僕に子作りがしたいと申し出ているのに、僕がそれを跳ね除けているのが悲しいんだよね。
今回の報告が子作り関連から始まったのも、それがあるからなんだろうなぁ。
たぶんも何も、僕が誾を抱く事は無い。
誾の姿がクリーチャーって事もあるけどね。誾が人間の姿になったところでそれは変わらないよ。
オーヴァーランダーを始める前には、僕には恋人がいたんだよ。事情があって別れたけど、別に嫌いになった訳でもないし。
やっぱりね、そこが引っ掛かるんだ。
人間の感情は複雑だ。理屈じゃないんだよ。
だからごめんね。
誾が頑張っても、僕には誾の想いに応えられないんだよ。




