綿花栽培と畜産
綿花の栽培には、種から始める育樹とダンジョンから木をそのまま持ち込む植樹の、2つのやり方がある。
ただ、綿花は1年草扱いの多年草っていうかなんて言うか。初年度から採取可能な植物資源なんだよね。植樹をやるメリットがどこまであるのかが不透明なんだけど。
まぁ、どちらも並行して進めればいいよね。
プランターでもできるって言われている綿花栽培。
いっちょ、挑戦してみますか。
綿花の栽培関係も、一応はPCでデータを持ってきていた。
プランターに使うポットは、そんなに大きくなくていい。その辺は適当みたいだね。
綿花は育てれば150㎝とか結構大きくなるんだけど、日本の品種なら100㎝未満で抑えるのが普通みたい。ダンジョンの、野生の綿花は130㎝ぐらいだったから、日本の品種と同じだと思って良さそうだ。
植樹で育てる奴は大き目のポットを使い、種から育てる奴は小さめのポットを使おう。
とりあえずそれを第一の方針にして、信綱にポットの作成を依頼しておいた。
同時に、ポットに入れる土は綿花の近くにあるダンジョンの、森の土を使うから、刀たちには土の運搬を指示。早めに動きだす事にした。
準備の少ない土器とはいえ、成型して焼き上げるまではそこそこ時間がかかる。実際に綿花の木を持ってくるのは次回にしようと思う。今回は準備だけだ。
「長様。今回の件で、少し相談があります」
僕がそうやって人手を使って新しい事を始めようとしたら、誾から苦情が届いた。
「今回の件ですが、既存の仕事への割り込みの為、他の仕事への影響が出ています。信綱にはレンガの作成依頼などもありますが、優先順位が分からず困惑している面があります。
無論、長様の意思が優先されるのは当然なのですが、それによる影響を頭の片隅にでも置いていただければと思います」
うん、分かるんだけどね。
でも、いい訳だけど、全体のバランスを整えようとすると、どうしても仕事の配分が偏るんだよ。
で、今は信綱のところにしわ寄せが行っているんだ。
それはしょうがないんだよ。
「それと、一つ提案があります。
現在の仕事で負荷が大きいのは、薪などに使う木材の確保ですが、その為の運搬用の道具を蔵人たちで作ってはいかがでしょうか?
運搬の労力が減るのは、様々な面で恩恵があります。有用性の高さは間違いありません」
「うん。僕も猫車とか作りたいって考えているんだけどね。金属の部分を木製にしても、タイヤがどうにもならないからねー。今は計画も経たないかな?」
僕が苦言に渋い顔をしていると、誾は別の話を振ってきた。
ダンジョン内の、運搬に関する物だ。
これに関しては、僕もいろいろ考えている。
拠点作りの時も猫車を欲しいと思ったし、普段から荷物の運搬には悩まされている。
どうにか解消できないかなって思うんだけど、これといった打開策が無いのが現状なんだ。
誾も、それぐらいは分かっていると思ったんだけどね。
「畜力の運搬と言うのはどうでしょうか?
具体的には、運搬用の動物として猪を飼い馴らす事を提案します」
おおぅ、そう来たか。
猪を飼い馴らせと。
……でも、猪を飼い馴らしたら豚になるっていうし、あながち悪い選択肢じゃないのかな?
馬と違って猪を運搬用に使うっていうのは全く考えていなかったけどさ。
僕の頭が固すぎるのかな。まったく考えもしなかった発想だよ。馬がいれば、間違いなく選んだ選択肢なんだけどね。
「でも、拠点への運搬だと、猪の分の食糧と水が必要になるよね。それって、単純に負担が増えるだけじゃない? 今のホームの規模で何とかなるかな?」
それと、生き物を飼う事が難しいのが気になるんだよね。
畜産関係は小学校の頃に畜産センターに行ったことがあるし、学校で兎の飼育をしていたから、面倒で、臭くて、とにかく大変なのはよく分かっているつもりだよ。
簡単に手出ししていいのか、そこが問題なんだ。
間違いなく負担が増えるし、それに見合ったメリットがあるかどうか。その見通しも立たないんだよ。
「ですが長様、畜産に手を出さない文明はありません。洋の東西を問わず、動物を生活の役に立てるのはどこでも行っている事。我らもまた、いずれは挑戦すべき事でしょう。
どうか、ご決断を」
ご決断を、って言うけどさ。むしろする事は決定事項ですって言ってるよね。
あとは僕のゴーサイン待ちですよ、って。
うにゅうにゅと言いたい事はあるけどさ。誾はもうそれが必要だって言っているわけで。僕が反対する理由は一つしかないんだよね。
「また、土地を広げないといけない訳かぁ」
「可能なら、猪の餌にドングリの追加もお願いします。一度固定化し回収したドングリを再配置することはできませんか?」
「無理。その手のズルは出来ないよ」
問題はEPなんだよね。
猪を飼育する土地を作らなきゃいけないし、それで相応の広さが求められることは畜産に疎い僕でも分かる常識で。
また出費がかさむのが嫌だって話なんだよね。
拠点の固定化もあるしさ。本当、EPがどれだけあっても足りないよ。
最後に、ふと思いついたことがあった。
「猪、捕獲できるの?」
「……それは、努力します」
やるって言いだしたのはそっちだし。頑張ってねー。
我ながら心が狭いなぁ。




