拠点その2
襲撃の方は危なげなくこなせるようになってきた。催涙弾さえあれば無傷で勝てる。
この分なら僕が抜けたところで支障は無いはず。刀の3匹もこれで5匹に増えたし、この子たちが育ってくればこちらの戦力はさらに増えて安定する。
僕の考えていた、ゴブリンによる自動EP回収システムは、今のところは無事に機能するだろう。
これも一つの不労所得ですよ。
かと言って、僕が何もしないって訳にはいかない。
玉座でふんぞり返っているだけの王様になると、ゴブリン達が離反しかねないし。
ゴブリンの寿命は人間よりも短いだろうっていうのが定説なんだよね。世代交代の際に新世代ゴブリンが僕に反旗を翻すって未来は、わりとあり得そうなんだよね。どうにかしてそれを防ぐ手段を考えないといけない。
いつか来るお別れ。
僕はそれに備えないといけないんだよ。
襲撃が終わればダンジョン内の拠点で野営をして、今回は事前に決めていた通り2泊の予定で先に進む。
行きで2日、帰りで1日の予定だ。
行きは荷物が多いんだし、拠点その2の設置と固定もある。それに、未知のエリアに進むんだから警戒もより一層しないといけない。帰りよりも時間を使うっていうのは当たり前なんだよ。
あ。今回はドローンは無しだよ。
そんなわけで、以前から下調べしていた中でも良さそうな所に拠点その2を建設中。
とは言え、最初から完璧な拠点を作れるっていう訳じゃないんだ。
時間が足りないし、基本は仮組みで終わらせるよ。具体的には寝床の周りに空堀を作りつつ、土壁で囲うだけ。今はこれが精一杯。
次回は鳴子とかも固定するけど、今日はまだやらない。
ちゃんとした形で設置しないと、また来た時に壊れているからね。楽して手抜きは後で酷い目にあうフラグなんだよ。
損して得取れ、急がば回れ、正道に勝る道は無し。
僕らの命がかかっているんだからね。下手な事はしないよ。
……それに、一度にそこまで作業して固定するためのEPを捻出するのが難しいっていう理由もあるんだよね。
一心不乱に空堀と土壁を作る班に僕・信綱・蔵人・卜伝。
周辺警戒は誾と義輝。
木を切らなくてもいい場所を選んだから、開墾作業はしなくていい。精々が地面を平らに均すだけだ。
ダンジョン内は雨が降る事もあるけど、そんな時はこっちに来ない。でも念のために土壁の中に竹のパイプを通して排水できるように作っている。
寝床の地面の高さを少し盛ることで水が外に流れ出る仕組みを作るんだね。キャンプ系の知識では最初から少し高い所に拠点を作るように言うんだけど、それは僕らにはできないからねぇ。そんな都合のいい立地があれば、そこにゴブリンが集落を作っているだろうさ。
「それにしても、暑いね」
作業中、流れる汗が目に入りそうになった。
僕は首にかけていたタオルで汗を拭うと、腰に下げていた竹の水筒に口を付ける。
ついでに塩を舐めて塩分も補給。
気温は20~25℃と涼しいぐらいだろうけど、肉体労働をすればそんな事は関係なく汗が滝のように出る。上はシャツだけになっているんだけど、汗で白のシャツが透けているよ。べったり張り付いて気持ち悪い。
周りを見れば信綱たちも同じようにしている。そこは人間もゴブリンも関係ないね。
土壁の建設は、3時間を目処で止めることになっている。
完璧を目指すならもっと頑張った方がいいんだけど、それだと手が足りない、時間が足りない。
僕ら1人と6匹――この場にいない義姫の分も含めてだけど――が荷物を置き、寝る事が出来るスペースを壁で囲い、堀を作るのは本当に大変なんだよ。
堀と壁だけでも完成まであと3回は頑張らないと駄目だろうね。
それにしても、こうやって壁を作ったりしていると猫車が欲しくなるね。
土をたくさん運べるようにするのって、どんな手段があったかなぁ?
ふと思ったんだけど、土をレンガ状にして壁に使ったらより強固になるかな? 成型した方が運びやすくなる?
いや、仕事を増やしてどうするんだよ。
そこまでやっていたら何日あっても仕事が終わらないよ。
そういうのは、ホームでレンガの家を作るところから始めるべきだね。
ホームなら刀も使えるし、人手もばっちりだ。
今すぐ始めるって話でもないけど、目標の一つとして覚えておこう。




