ダンジョン初回 7日目終わり
罠の仕掛けは簡単だよ。
しなる木があったから、しならせて、ロープで固定して、石の散弾をブチ撒けるようにしただけ。
あとはそのスイッチを、アラームと連動するようにセットする。アラームをバイブモードにしておけば振動で固定しているロープが解けるようにしてあるんだよ。
問題は狙ったところに石が飛ぶのかっていうのと、狙ったところにゴブリンが居てくれるのかっていうのと、スマホが無事に回収できるのかなって事なんだよね。
ゴブリンを倒せなきゃ、少しでも行動不能に出来なきゃ意味が無いし、スマホが壊れたら完全に赤字なんだからスマホが壊れるような使い方はしたくない。
僕は利益を上げるためにここに居るんだからね。
ゴブリンの足音と、罠の向きを考える。
足音から移動する向きと速度を計算して、そこを中心に石がばら撒かれるようにした。
ついでに、アラームが鳴り出すまでの時間でもう一個似たような罠を作った。
こっちの罠の起動は手動だけど、もしも2匹以上のゴブリンが近くに来たなら、これで追い払えたらいいなって、保険で用意してみたんだよ。
もちろん、足元に投げるための石ころをたくさん用意しておいた。
「グギャ?」
アラームはセットしてから5分後にヴヴヴと振動し始めた。
その音に気が付いたゴブリンが1匹、何事かと周囲を見回し、スマホに気が付いた。スマホの事など知らないゴブリンは何の警戒心も持たず、スマホの方へと歩いて行き――
「グギャッ!?」
――その後、飛んできた石に全身を打ちつけられて絶命した。
僕は茂みに隠れたまま、その光景を見ていた。
この段階で姿を現す必要はない。
まだ、相手の行動を把握することに勤めるべきだ。
ゴブリン達は残り3匹だが、その残ったゴブリン達も無事ではない。
うち2匹が痛みでうずくまり、比較的ダメージの少ない1匹が周囲をキョロキョロと見ている。
そして、未だに音を立てているスマホの存在に気が付いた。
僕はスマホに気が付いたゴブリンめがけて石を投げる。
投げる。
投げる。
足元にはたくさんの残弾がある。
ちょっと小さめの石ころが多いけど、それでも20個は石を集めておいた。
最後の手段、聖剣(笑)バールもあるし、準備は万端だ。
まずは1匹と全力で石を投げる。
体に当たっても、そんなに威力は無いからダメージにならない。痛いだろうけど、我慢できないほどじゃない。
頭を狙う。頭に当たれば一発だ。行動不能になれと集中して狙う。だけどなかなか頭には当たってくれず、ゴブリンも必死に避けているので上手くいかない。
避けるのに相手も必死だから、こっちに近づいてこないのが幸いだね。まぁ、近付かれたら石を当てられるんだろうけど。
残弾が少なくなってきた。
仕方が無いから、うずくまっているゴブリンを先に処理しようか。
僕は狙いを変えて殺せるほうから先に石をぶつける。
うずくまっていたゴブリンは避けようともしていないので、石は頭に当たった。石をぶつけられたゴブリンはそのまま横に倒れた。
僕はもう1匹もそのまま石をぶつけて行動不能に持ち込む。
そうなるとフリーになった動けるゴブリンがいる訳だけど、そのゴブリンは仲間を見捨ててそのまま背を見せ逃げ出した。
一瞬だけ呆気にとられたけど、選択肢としては間違っていない。一方的に殺されそうになったんなら逃げるのは普通の事だ。誰だって、モンスターだって死にたくないんだ。逃げたってしょうがない。
だけど、僕にしてみればゴブリンはお金だ。
殺せば1匹につき千円の収入。
クエスト報酬もあるし細かいことを言えば違うんだけど、5匹目以降は千円って計算でいいと思う。
とにかく、逃がさない方がいい。僕の手口を学ばれても厄介だからね。この場で殺すのが正解だと思う。
背中に向けて石を投げても、距離があると殺傷能力に難があって殺しきれないのは明白だ。ましてや逃げている最中であればさらに威力は減衰すると思う。
だから僕はゴブリンを追いかけ走り出す。
最初は15mぐらい距離があったけど、体格差もあって僕の方が早い。言うなれば小学生と徒競走をしているようなものだ。
全力で走れば、荷物を持っていてもすぐに追いつく。
相手の近くまで近寄ると、走りの為の腕の振りの勢いを使って、バールの曲がった部分を相手の頭に振り下ろす。
バールの先端が、その尖った部分がゴブリンの無防備な後頭部に突き刺さった。即死させられたわけではないので、ゴブリンはそのまま足をもつれさせて倒れただけだ。まだ、生きている。
「ギャァァァ!!」
痛みにのた打ち回るゴブリン。
頭を抱えたままゴロゴロと転がっている。
僕はそんなゴブリンの横腹をつま先で思いっきり蹴り飛ばし、あばら骨を折る。
そうなるとゴブリンは口から泡を吐いてあまり動かなくなった。ビクンビクンと痙攣している。
まだ生きているならトドメを刺さなきゃね。
僕はバールではなく、近くに落ちていた大きめの石を拾い、ゴブリンの横で上に大きく振りかぶった。
そしてそのままゴブリンに石をぶつける。遠心力で、ゴブリンの体に大きなダメージを与える。
僕はぶつけた石をまた拾い、何度もゴブリンにぶつけ続けた。
死ぬまで、何度も。
やっぱりね、直接殴り殺すよりも石をぶつける方が、殺しの触感を感じずに済むね。ほんの僅かだけどバールで殴り殺すよりはハードルが低い。
僕はその場にいたゴブリンにトドメを刺せたことを確認すると、元の場所に戻ってスマホを回収。そこにいた3匹もちゃんと殺せたことを確認し、次の作業に移る事にした。
そうして最終日だけで9匹のゴブリンを殺すことに成功した僕は、ノルマの2倍以上、13匹もゴブリンを殺したことでEPを33Pも稼ぐことに成功した。
収支で言えば3万3千円。
人件費や初期投資を考えなければ黒字だけど細かい所まで考えると微妙な収益に、僕は一先ずの安堵を得るのだった。