異世界魔法
自分の手でどうにもならないって実感があるとテンションが下がるんだよね。
糸から手作業で服を作るとなると、本当に何日も必要だから困るよ。
日本から持ち込むなら一着1000円程度の服でも、こっちでは何日かかけて数段どころか比べるのも烏滸がましいようなボロい布の服を作るので精一杯。
日本で生きているのがどれだけ恵まれているか分かるってものだよね。
その日本も父さんとか母さんが若かったころと比べても凄く進歩したらしいけど、今の僕には比べる対象が無いからよく分からないや。
その頃に生きていれば、もっとダンジョンでもうまく振る舞えるのかな?
まぁ、なんにせよ無い物ねだりだよね。
僕は気分転換程度の気持ちでホームを歩く。
とは言え、狭いホーム内だ。小屋を出れば購入した竹林4区画に家の2区画が2つ、風呂に追加の水源と窯の研究でもう4区画。1区画が5m四方しかないから、家の中に行かなければ散歩にもならない狭い世界でしかない。
そんなわけで僕はちょっと覗けば視界に入る、信綱の様子を見てみた。
そして、自分の目を疑った。
「グギュゥゥゥ~~」
「信綱、何してるの? いや、いい。
誾、信綱って魔法が使えるようになったの?」
僕が見た時、信綱は手に木の枝を持ち、その先端から火を出していた。出した火で素焼きの土器を作っているところだった。
ステータス画面から確認してみると、信綱のスキル一覧に≪火魔法≫、アビリティに≪魔法適正≫という物があった。
正直、自分でも何が起きているのか理解できていない。
というか、≪魔法適正≫って何?
どうやって習得したのさ?
少なくとも、僕はEPを使っていないよ?
信綱の話では、僕が火付けに使っている100均アイテム「come着火」を見ていて、自分も真似をしていたらできるようになったと言っている。
どうやら、信綱には文明の利器と魔法の区別が出来ていないらしい。
そして区別がつかないからこそ、木の枝を使って火を出すことに成功したと。
うん、訳が分からないね。
でも、そもそも魔法なんてそんなもんか。
あれでも大昔の人が必死に考えた科学的アプローチなんだよね。体に蜂蜜を塗って鳥の羽根をくっつけたら鳥に変身できるとか、本気でそんな事が事実だと思っていたかどうかは横に置くけどさ。
要するに、だ。
魔法なんて思い込みとそれを本気で出来ると思って実行するだけで何とかなるモノなんだろうね。
自分にできると思えないのが残念だけどさ。
正直なところ、最初に魔法が使えるようになるのは誾だと思っていた。
主に信仰系の魔法とか、シャーマン的な魔法とか。
立ち位置も巫女っぽかったからね。そんな雰囲気ではあったんだよ。
でも、実際に魔法が使えるようになったのは信綱の方、と。
いいんだけどね?
なんとなく、戦士系だと思っていた信綱の方が先に魔法を使えるようになるのは不思議な感じが……あ。
ふと思ったんだけど、誾が魔法を使えないのって僕の所為だったりするのかな?
誾は僕の秘書みたいなものだからさ、いろいろと文明の利器についても説明しているし、科学的な思考も鍛えられている。
信綱たちは日本語を知らずゴブリン語だから、科学知識を理解しようにも対応する言葉が無いんだよね。で、僕や誾はそれを問題と思わなかったからそれをそのまま放置していたわけだけど。
つまり下手な知識が無い方が、科学技術前提の常識を知らない方が、魔法使いとしての適正が伸びやすい?
想像でしかないけど、もしも魔法がイメージ準拠っていうなら、下手な科学知識は魔法のイメージを否定する材料にされて魔法使いにとって致命的な足かせになるのかも。
うーわー。
もしかするとスキルやアビリティで何とかなるかもしれないけど、思い込みの力が足りなければ、スキルとアビリティを揃えても僕は魔法使いになれないかもしれないね。
へこむなー。




