強行偵察
「長様。信綱らが、本日中に行けるところまで進んでみたいと申しています」
「水はそのまま持って行くとして。ご飯はどうするの?」
「昼を多めに食べて、夕飯は無し。寝るまでには戻ってくると言っています」
「うーん。どうしようかな?」
先に進むとなると、これまで以上に周辺地形の確認が必要になる。
僕の宣言を聞いた信綱は、今回の訓練中にさらに先を目指したいと言い出した。
今、僕らがいる拠点はホームから片道3時間ぐらいだ。距離に直すと7㎞ぐらい?
森の中を歩いているっていうのもあるけど、一番のネックは重い荷物だ。武器などと食料と水を合わせると、10㎏ほどを抱えているからだ。例えばだけど、ペットボトル2リットル6本入りの箱を抱えながら移動していると思ってもらえれば想像しやすいだろうか? 実際にはリュックなども使っているから負担は少ないけど、それでも体力消費は大きくなるんだよ。3時間の移動でも、かなり疲れるんだ。
森の移動で体力の限界に挑戦するのはバカのすることだからね。普段は余裕をもって、息を切らさない程度の範囲で動くようにしている。
この拠点の周囲も、ほぼ同じ距離をすでに調査してある。
だから休憩込みなら8時間分の距離を探索済みって事だし、その探索範囲内で良さそうな場所を使うつもりだけど……。
信綱たち、どこまで足を延ばす気なのかな?
1時間分程度ならやらなくてもいいと思うんだけど。
仮に、お昼を食べた後から動いたとして、荷物を少なめにするから10㎞を3時間で移動することも難しくない。で、1時間ぐらい休憩して帰ってくれば夜の8時。
正直、意味があるかどうか考えちゃうレベルだ。誤差の範囲内だと思う。
そして≪夜目≫アビリティがあるから夜になるのはいいとして、少数で行動させるリスクを考えるとやらないほうが良いんじゃないかな。
自分の中で考えをまとめ、そのことを誾に伝えてみる。
「移動は4時間程度を考えています。それなら普段の倍の範囲を移動し、調査できます」
「えー。それだと、体力を使いすぎない? 何かあった時の対応ができないと思うよ。特に未知のエリアに進むんなら、普段以上に余裕を作らないと拙くないかな」
そうすると、誾は僕の考え以上に危険なことを言い出した。
信綱の発案かもしれないけど、ちょっと無理がありすぎる気がする。
「行くのは信綱と義輝に任せます。彼らならやってやれないことはありません。
危険を冒すのを厭うのは分かります。ですが過保護にならず、我らを信じてはいただけないでしょうか?」
僕が難色を示すと、誾は深々と頭を下げて「どうか御再考を」、と言う。
僕はあんまりリスクを背負いたくない。
信綱たちはサーヴァントで、EPを使って生き返らせることができるような存在なんだけどさ。無駄に死なせるのは嫌なんだよね。復活に使うEPはたったの100Pと、復活の凄さを考えるとありえないほど安いけどさ。
死なないならそれに越したことは無い。それが僕の考えなんだよね。
でも、誾はそもそも死ぬ気は無いし、生きて戻れると言い切っている。
ここで僕が自分の意見を通すのは、信綱たちを信用していないと言っているのと同じだ。
それはそれで嫌な話だよね。
僕にとっても、信綱らにとっても。
「許可をするよ。死なないことが最優先。逃げたゴブリンと戦うとか、何かあればすぐに戻ってくること。この約束を守るなら、言って良し!」
「分かりました。この命、ではなく、この名に懸けまして。必ずや生きて戻ると誓いましょう。――信綱が」
最終的に、僕が折れることにした。
少し難しい顔をした僕に対し、誾は少しおどけるように誓いを口にする。
夕飯の分もしっかり食べて行けと、信綱と義輝には僕の分を削ってカレーの大盛りを食べさせた。夕方にでも食べるといいよと、カロリーフレンドも渡した。
そして、信綱と義輝を見送った。
今生の別れってわけじゃないけどね。
それでも死地に仲間を送るのって、慣れないよ。
リーダーをやっていくなら慣れなきゃいけないんだろうけどね。今は、そこまで命を割り切れないよ。




