消耗戦
今の僕らにはゴブリンの大軍と言って差し支えない数が姿を現す。
陣地の風向きはこちらが風上なので、催涙弾は問題なく使える。自分の運の良さにホッとした。
敵は斥候を最初にぶつけて様子を見て、その後本格的に攻めてくるスタイルのようだ。後ろに軍監、督戦隊のような連中もいるし、たぶんそう言う事だろう。
まぁ、最初は石を投げるだけで済ませる気だから、何の問題も無いんだけどね。催涙弾は敵が10匹以上同時に攻めてきた時の切り札なんだよ。
僕らが待ち構えていると、最初のゴブリン達は叫び声をあげて攻めてきた。
僕らはそれを石を投げる事で迎え撃ち、あっさりと撃破した。
その様子を見た後方の部隊は全員撤退し、僕らはつかの間の休息を得る。
次に来たのは盾を持った連中だ。ちょっと大きめの木の板に取っ手をつけただけのものだけど、身体の小さなゴブリンの上半身は完全に隠せる物を持っていた。
全員じゃないけど、前を走る奴が壁になればいいのだし、その判断は間違いじゃないと思う。
嬉しくないね。ゴブリンの装備は着々と揃ってきているみたいだ。
今度は10匹だけど、今回も石を投げて戦う事にした。催涙弾は無しだね。
10回は使えるんだけど、敵本陣に使い切る必要もないし。ゴブリンの集落は二つあるんだし、もう片方の事を考えると5個が限界だよ。
それに、敵の数が少ない分、効果が弱くなりそうだし。
今度は盾を前に掲げているから、投石の効果が弱い。当たっても盾に跳ね返されるからなかなか足が止まらない。
でも、上半身を完全に隠すと視界が悪くなるなんてものじゃないから、僕は正面からそのまま石を投げるけど、信綱や義輝らは相手の横に回るように位置を変えた。
そうすると盾で防げない側面からの攻撃になって、突っ込んできたゴブリンのうち4匹はそのまま沈み、残る6匹のうち3匹はそれなりのダメージを負ってくれた。
あとは僕や蔵人がそのままスコップで薙ぎ払い、距離が出来れば誾と義姫が石を投げ、卜伝が後ろに回ってプレッシャーをかけてしまえばすぐに戦いが終わった。
強敵ゴブがおらず、雑魚ゴブというか、非戦闘員をぶつけられた気がした。
敵の督戦隊はそれを見届ける前に逃げ出している。
そして僕らは長めの休憩にはいる事になった。
僕らはそのまますぐに戦えるように全員で立って構えるといった事をしない。
こうやって正面から敵を潰したことで、次にやってくるのは側面、背面からの奇襲じゃないかと中りを付けた。
もしくは正面から戦っても勝てないのだし、籠城戦に移ったかもしれないね。
そこで僕らは陣地が見える別の場所に潜み、そこで周囲を警戒しつつ休むことにした。
あ。敵の使っていた盾は回収したよ。
今度は1時間たってもゴブリンの姿が見えず、僕らの緊張感も緩む。
周囲の警戒って、結構気を使うからね。立っているだけでそれなりに消耗するし、皆で何かするというのは無駄でしかないって聞いている。半分は休ませて、残る半分は座って休ませている。
敵ゴブが持っていた盾は、地面に直接座りたくない僕らの、ちょうどいい座椅子になった。
相手が何を狙っているかは知らないけど、何もする事が無いというのはあまり嬉しくない。
周囲の警戒で消耗するのと休憩で体力が回復するのとでは、消耗の方が大きかった。気が休まらない時の休憩って、あんまり効果が無いみたいだね。
喋って気を紛らわせることもできないし、本当に戦地って厄介だ。上手く休めているのは信綱と義輝ぐらいかな?
1時間も待たされたんだし、水や軽食で軽く補給をしておいた。
そうやってジリジリと消耗している僕らは、補給から更に1時間、合計2時間の待機状態を経て敵ゴブを発見する。
敵はまた斥候ゴブを派遣してきたようで、その数10匹全てが盾を持って現れた。
そこで僕らの姿を見失ったため、周囲をキョロキョロと見回して僕らを探している。
僕らはそれを見届けると、敵本隊を探す事にした。
督戦隊を潰す事も考えたんだけど、どうせなら敵本隊を先に襲撃した方が良さそうだからだ。
非戦闘員による波状攻撃で体力を消耗しては、強敵ゴブやホブゴブリンの居る敵本隊との戦いで不覚を取るかもしれない。強敵ゴブリン混じりの部隊なら本隊の数を削っているのだからこのままでいいんだろうけど、非戦闘員を相手に消耗するのは無駄でしかない。
ならばちゃんと戦えるうちに挑んだ方が効率がいいと考え、敵本隊を探す。
催涙弾もあるし、風向き次第では撤収も考えた方がいいけど、勝てない勝負じゃないと思うよ。




