斥候との接触
ホブゴブリンは何かあったというのを本能的に察知したのかもしれない。
敵の数は60と、僕の予想を超える数字だった。
もしかしたら非戦闘員を輜重部隊として連れているのかもしれない。
伝令役という事も考えられる。
しかし、最悪を考えた方がいざって時の対応力に差が出る。
僕は出てきた連中が全員戦闘要員と考え、作戦を練る事にした。
敵の行動を予測すると、やっぱり最初に全滅させた連中の足取りを追うだろうと思う。
だから僕は信綱と別行動をして、義輝と敵ゴブが遭遇した場所に向かい、信綱にはみんなに連絡をしてから僕と合流しに戻ってくるように伝えておいた。
一番大事なのは敵を陣地に向かわせることだけど、もう一つ忘れず確認しないといけないことがある。
それは風向きだ。
催涙弾のテストをしようと思うと、風向きに注意しないと自爆する。
ゴーグルやマスクで耐えれば良いというのは考え違いだと思う。
ちょっとでも自分にかかれば相当辛いと思うし、ゴーグルは視界を狭めるデメリットを考えると装備したくない。
それよりも風向きに注意して、効果的に運用できる方法を取った方がいいというのが僕の考えだ。
敵ゴブの集団が来る前にさっきの遭遇地点に着いた。
僕は双眼鏡で視界の悪い森の中を観察する。
じっとしていれば100m離れるだけで絶対にバレないのが森の中で、僕だって敵が通る道への視界が確保できるところにいるから何とかなっているだけで、相手に気が付かれない自信がある。
人間、100m先の動かない物には意識を引かれる事などまず無いんだ。
僕が隠れだしてから5分か10分か。じっとしていて時間感覚がよく分からない状態だったけど、ようやく敵ゴブが見えた。
ただ、その数は少なく5匹ぐらいだと思う。装備も粗末というか、普段見る敵ゴブよりも纏う毛皮が小さく扱いが悪そうな連中だ。
見えたのは斥候、先行して情報収集する役なのだろう。そいつらが犠牲になってもいいから本隊は安全なところで待っているんじゃないかな。
戦力の逐次投入は愚策だとよく言われるけど、情報も何も無い中に全戦力を投入する方がよっぽどの愚策だと思う。本能でそれを分かっているかもしれない敵のリーダー、ホブゴブリンは優秀みたいだ。
僕は警戒レベルを一段上げ、いつも以上に慎重に振る舞う事を決めた。
とりあえず斥候ゴブリンは僕の方に近づいて来ない限り無視することにした。
だけど、僕は自分が判断ミスをしていたことを忘れていた。
信綱が合流するのに、敵が気が付く可能性を考えていなかったんだ。
「グギャッ!」
信綱は悪くない。
森の中は草が生えているし葉っぱとか枝とか落ちているから、普通に歩くだけで音が出る。それを無くすなんてことは絶対に出来ない。
そして信綱は敵ゴブ斥候に気が付かれた。
「信綱! 石! 応戦!」
「グギャギャッ!」
僕は隠れ続けても無駄だと判断し、この場で斥候ゴブを殺す事にした。
この場でこいつらを殺し、少しでも戦力を削ぐ。
その後は撤退してみんなと合流。いつも通り戦えばいいと気持ちを入れ替える。
普段よりも敵の数が多いが、みんなで戦えば何とかなると僕は判断した。
先ほど慎重に振る舞おうと考えていたけど、この場でグダグダすればその分だけ危険度が増す。即断即決こそが慎重で適切な行動だと割り切った。
もちろん戦闘が長引けば敵の数が増えるので、時間がかかりそうなら戦闘中でも撤退するけど、弱そうで扱いが悪そうな5匹ぐらいならすぐに勝てると踏んでいる。まさかこいつらがエリート系な強敵ゴブリンという事は無いはずだ。
まずは遠距離攻撃で3匹は殺す。
僕は隣に来た信綱と一緒になって石を投げ始めた。




