久しぶりの野戦
集落殲滅がなくなったことで、僕のアタック1回におけるEP収入は400Pぐらいから100Pぐらいまで減少してしまった。
これは今後の計画に大幅な修正が必要になりそうな話だ。
EP収入が増えたことでお風呂など生活環境の改善が実現できたこと、土地を広く使って色々とできるようになった。
人間、一回ではなくしばらくの間「これだけの収入があった」という上の生活をすると、どうしても生活環境がランクダウンすることが許せなくなるというか、これぐらい頑張ればこれだけのご褒美が手に入るという餌を取り上げられたくないというか、とにかく「元の水準に戻そう」という気持ちが強くなる。
最初の方はアタック1回で100Pで満足できたんだけどね。
不思議不思議。
アタック37回目。
そんな自覚はあっても、無理をしてでも集落殲滅をしたい僕は催涙スプレーの缶を10個ほど買ってきた。
これを爆発させることで催涙弾にしてしまおうという計画だ。
作り方は全部ネットにあったので、それをそのまま使う事にした。
最近のインターネットはオーヴァーランダーのプレイヤー向けを意識しているのか怖い情報も多く、こういった武器を作るための手順が事細かに調べられるようになっている。
もちろん犯罪に使えばそのままお縄なんだけど、海外サイトなんかは日本から規制できないし、もしかしたら海外へのネットアクセスは何らかの認証が必要になるかもねって噂もある。
ネット情報通りの作業をすることで、日本で作ったら所持しているだけで犯罪になっちゃう催涙弾が10個できた。
いきなり集落襲撃に使ったら失敗するかもしれないので、まずは狩りに出たゴブリンの一団を襲撃することにした。
僕らはゴブリンの集落の入り口近くに張り込み、数匹のゴブリンが出てくるのを待った。
張り込みから1時間もしないうちにゴブリンが10匹も出てくるのが見えた。
これまでだと、狩りを目的としていれば4匹ぐらいで出てくることがほとんどだった。
僕の覚えている限りだと、6匹が最大規模だった。
それがいきなり10匹も出てきたとなると、ちょっとどころでなく怖いと体が震える。
一瞬だけ、この集団を無視してもっと数の少ない集団を相手にするべきじゃないかと考えたけど、それでも僕はこの集団を相手に戦うことにした。
今後はこれ以上の規模の敵を相手にする可能性があるわけで、だったら今のうちに10匹との戦闘を経験しておくのも悪くないと考えたのだ。
僕は義輝以外のみんなに合図を送り、いつもの陣地に移動するように命じた。
敵集団をよーく観察してみると、遠距離攻撃手段を持っているゴブリンはいなさそうだった。
奴らの武器はというと、手に持ったこん棒や木の槍だけでなく、石斧を持っているゴブリンが混じっている。石器時代から青銅器時代への移行はまだ済んでいなさそうでほっとした。
ただ、防具の方は全員が毛皮のマントを羽織っており、足にはサンダルにも見える靴の原型を使っているように見えた。……撒き菱の効果が少し落ちるね。
僕と義輝はみんなのところまでこのゴブリンどもを釣る、囮の役目だ。
いや、正しくは義輝だけが囮で、僕はいざって時の予備戦力になる。
義輝が囮になって敵を誘導し、もしも義輝がピンチになれば僕が2個だけ持った催涙弾で援護する手はずになっている。
ゴブリンの集団が何もせずとも陣地まで行ってくれそうなら介入は無しの取り決めだったけど、あと2分もかからず陣地まで行くだろうというところで奴らは別方向に移動しようとした。
それを見た義輝が僕のところから離れ、僕はその場で待機。
義輝は僕からある程度離れたところで器用に木の上に登ると、腰に下げたポーチから球を取り出し、パチンコで狙撃を開始した。
義輝は遠距離攻撃のエキスパートだからね。20m先にいたゴブリンの1匹が頭部に弾を当てられ、そのまま動かなくなった。
そのまま義輝は3匹のゴブリンを狙撃し、手早く4匹も仕留めて見せた。
……あれ?
もしかして、みんなで遠距離攻撃を仕掛ければ普通に勝てるんじゃないかな?
催涙弾はいらない子?
僕は自分の行動に疑問を覚えたけど、よくよく思い返してみれば、僕一人でも4匹のゴブリンを相手に勝てたんだよね。総力戦に持ち込めば+6匹の仲間がいる今なら、10匹相手は勝てると考えてよかったようだ。
自分の馬鹿さ加減、安定した戦争というか作業に慣れてしまって闘争本能を忘れていた僕は、リスクに対して臆病になっていたことを自覚した。
自分たちの戦力と敵の規模を考え、もうちょっと効率よく戦うことを考えないとダメっぽい。
僕がそんなことを考えている間に、義輝はその場で戦うことをせず木と木の枝から枝へ、地上に降りることなくそのまま敵の誘導を開始した。
いけないね。
僕は考えるのを後にして、誘導されるゴブリンの後を追った。




