対策会議②
こっちの戦術の基本は、集落にいるゴブリンを集落から追い出し、こちらが用意した戦場に誘い込み、防衛戦という有利な状況で防衛設備と罠をフルに使うことだ。
敵の最大の力である数の力をそれ以外の要素で覆すのが基本になっている。
海外、アメリカでは銃で戦う人もそれなりにいるんだけど、銃で戦うと弾薬代でほとんど儲からないらしいんだよね。
軍隊は機関銃なんて使っていたらしいけど、利益が出ているかどうかは、もしかしたら微妙かもしれないね。
僕らは火事というシンプルな方法で敵を追い立てていたんだけど、それができなくなったから催涙弾を自作することにした。
数の差を埋めるにはこちらも子供を作ろうと提案されたけど、それは義姫に一任することになっている。
本当は誾も子作りに励んでほしいんだけどね。誾は僕の巫女って事でお役御免、見逃されている。
誾の特別扱いについては信綱らも一応は理解しているみたいなんだけどね、あんまり特権意識を持たせてしまうと組織が崩壊しかねない。
どこかでバランスを取りたいんだけど、正直、僕にはどうすればいいか分からないよ。
銃じゃないけど、僕らも鉄器を自作できるようにして新しく配下にするゴブリン用の武器を揃えるべきじゃないかという意見がある。
かつてアーサー王が振るったと言われるエクスカリバーは、青銅製の武具が主流の時代に作られた鉄製の件じゃないかって言う学説があるぐらいに、鉄器っていうのは強力な武器なんだ。
こちらにはネット情報があり、あちらにはダンジョン補正がある。
どっちの方が早いか競争だね。
あとはクロスボウの作成。
ネット小説でよくある武力チートの象徴の一つで、これができるようになっても戦力は大幅に向上する。
数を揃えみんなで一斉斉射をすれば、部族規模の戦闘で戦果を挙げることは間違いないと思う。
問題は弓すらまともに作ったことのない僕らがクロスボウなんて物まで作れるのかっていう事。ネット情報で図面を探してくるのはいいんだけど、それを再現する加工技術がないからね。
それに図面がちゃんとしていても、図面通りに物を作っても、コツを知らない僕らは図面に乗っていないやらなきゃいけないことを見逃すっていう不安がある。
まぁ、数をこなせば何とかなるよね?
現状をまとめたところで、新しい意見がないかとみんなに聞いてみる。
「グギャッ!」
「長様。釣りをすることはできないかと、義輝が言っています」
「釣り? ああ、誘い込み漁か」
義輝が、ゴブリンを挑発して罠のある陣地まで引っ張ってきてはどうかと僕に提案してきた。
提案は悪くないと思う。
ただ、釣りってなると、囮に使われる奴は相当危険だよね?
「グググ、グギャッ!」
「信綱なら大丈夫。自分も援護すれば必ず成功する、らしいです」
「んー。でもなぁ」
「グギャッ、グギャッ!」
「信綱と自分だけでやれば、相手も総力を挙げて追うことはしないし、言うほど危険ではないと、義輝は言っています」
「なら、陣地に誘い込めないかを、集落から出てくる狩猟部隊で試してみようか。集落からある程度離れた所から誘い込みをして、それが上手くいったら集落にも手を出すって事で」
「グッ!」
義輝の言うように、釣りだして数を削るのは確かに有効な手段だと思うけど。リスクが大きすぎる気がするんだよね。
釣って削った数次第ではその後に集落を攻め滅ぼすのも可能になるだろうけど、何回釣りだせばいいことやら。
まぁ、リスクを抑える手段がないわけでもないからね。危険に挑むなら保険を用意してから、つまりは次回からが本番って考えると、そこまで悪い意見でもないよね。
他にも「本当にあの集落を焼き尽くす方法を考えよう」とか「毒肉を今度こそ試してみよう」とか、ある程度意見が出たところで今回の会議はお開きにした。
議事録も取ったしあとで見直すとして、こういった意見を出す場って、次に習得できそうなスキルの候補を考えるのに役立つんだよね。
成長の方向性は様々だけど、やっぱり個性が関わってくるのは間違いないんだし。
意見を出すことで個性が浮き彫りになる事ってあるよね。
僕はゴブリン対策と、仲間の成長方向の確認ができたことに満足するのだった。




