ゴブリンに与えられたプロメテウスの火
アタック36回目。
今回からは新ゴブを増やしていくことにした。
いつもの場所へいつものように殲滅戦に来たわけだけど、今回は待っていてもゴブリンが来ない。
……仕掛けが不発という事は、無い。これまで通りの対処をゴブリンがしなかったみたいだ。
僕らは有利な陣地からいったん出て、ゴブリンの集落を偵察することにした。
久しぶりに健在なゴブリン集落を見たわけだけど、仕掛けが上手くいかなかった理由が分かった。
ゴブリンの数が増え、炊事の煙が上がっていたんだ
ゴブリンは、とうとう火を使う事を覚えたらしい。
火の扱いを覚えたという事は、消火活動ができるってこと。
これまでは火が未知のものだったから対処方法もわからずに逃げていたわけだけど、火が既知になったことで脅威として認識されなくなったみたいだ。
つまり、これまで通りの方法でゴブリンを追い立てることができないって事で。
僕のEP収入が激減するって話でもあった。
ぶっちゃけ、とてもピンチになってしまったよ。
僕の行動計画は、安定したゴブリン殲滅が前提条件だ。
防衛陣地である集落を襲うのではなく、こちらが指定した戦場へ追い込むことで数の不利を覆してきたんだ。
これが攻め手になるのだとしたら、相手と同数を用意する必要があるし、何より少なくない被害を覚悟しないといけなくなる。
それは僕にとって、許容できない話であった。
これまで通りに相手を追い立てる手段を考えないといけないんだけど、いきなり考えて上手くいくなら苦労はしない。これまでの陣地だって、数回の試行錯誤の果てに決めたルート選定があっての事なんだよ。
方法を考えて、陣地に誘い込むように誘導して。……ヘビーだなぁ。
火事というかボヤ騒ぎを起こす今までの方法が使えないとなると、もっと大掛かりなピンチを演出する必要がある。
漁夫の利を得られるような対抗勢力が近くにあれば二つのゴブリンの集落をぶつけるような方法を取れるんだろうけど、ゴブリンは互いの土地に入らないようにして争いを避けている。
ここいらのゴブリンが分散して集落を作っている理由って、土地の持つ食料生産力とゴブリンの食料消費量のバランスの問題なんだよね。
農耕民族は畑という高生産量の土地があるから多数を養えるけど、狩猟民族なゴブリンは広い土地に対し少数しか養えないんだ。
だから分散して奪い合いを避けるようになっているわけだけど、それを考えるとぶつけ合わせるのはとっても難しい。
例えば僕らが片方の集落の食料を森から大量に奪ったりすることでもう片方の集落に疑念を持たせる手法を取ろうとしたとするよね。
でも、その集落を疑うかどうかは不明で不確定なんだよね。もしも内部にスパイでも送り込めれば話は別なんだけど、そんなことができる人材がいない。
信綱らうちのゴブリンとダンジョン産のゴブリンとは、同じゴブリン語で統一されているというわけではない。あっちとこっち、同じゴブリンでも別言語を話しているんだよね。ちょうど人間が国ごとに違う言語を使うようなものなんだ。
だからこちらから情報を流して扇動するといった手法は使えない。
もう一つ思いつく手法が猪のトレインだけど、これでゴブリンの集落、それもゴブ人口100匹近い集団を逃げ出すレベルで混乱させられるかっていうと、それも無理だ。猪の数頭ではあっさりと返り討ちに遭うだろう。
そもそもどうやって猪を誘導するんだっていう問題もある。
催涙スプレーでも使うかな?
対痴漢グッズとかの中には目に入れたらヤバいスプレーとかあるけど、それを何らかの方法で爆発させれば面白い事になってくれる可能性が高い。ゴブリンに催涙スプレーが有効なのは実験済みだし、頑張って何とかならないかな?
問題は投擲と爆発をセットで出来ないとダメっぽい事だけど、それをクリアすれば新しいやり方も次に進むってものだよね。
僕は今回の襲撃を諦め、別の集落の見に行くことにした。
そちらも似たような文明レベルであることを確認した僕は、今回の遠征演習もキャンセルすると決め、今後の対策を練ることにするのだった。




