ゴブリン組織論
それにしても、と思う。
これまでも美味しい食事や服のこととか、ゴブリンの皆にもこだわるポイントがあったと思うけど。
今回のお風呂の件は、それらと何が違ったんだろうか。
多分だけど、「自分たちだけで完結するかどうか」だと思う。
これまでの欲求は、僕がどうにかするかしないって事ばかりだ。
美味しいご飯や着心地のいい服は、僕が持ち込んだものばかり。使いやすい道具とか新しい技術とかも、僕が持ち込まないとどうにもならない。
でもお風呂に関しては、五右衛門風呂はEP交換で入手したものだけど、その後の運用に関しては自分たちだけで完結できる事だ。
つまり、僕から独立した行動と言うか、ゴブリン独自の文化になりうる事と言うか。僕を介さない行動なんだよね。
そういった欲求だからこそ、誾は新しくゴブリンを増やしてどうにかしようって言いだしたわけだ。
これを認めるかどうかだけど、僕は認めてしまおうと思う。
数を増やすこと自体はもとからあった構想だし、基本路線としては悪くない。
問題はEPで土地を広げないといけないって点だけど、その点については――
「ゴブリンの集落を殲滅したのち、下部構成員にはそこを使わせることで解決しようと思いました」
「一応、腹案はあったのね。
でも、そんな事をするよりホームに集落を作らせた方が、ホームに土地を買った方が効率がいいから却下。心情的な理由は横に置き、合理性から認められません」
僕に頼らない組織って考えると、それが妥当なのかもしれないけどさ。
「それに、さすがにそこまで下に扱うのはどうかと思うよ?
確かに格の違いを見せつけるのは必要だと思うけどさ。
ご飯とか、差を作るのはしょうがないにしても、住むところは今後を考えれば土地の拡張は必須だし。家の作成も含め、ここに住まわせることで決定ね」
「分かりました。では、そのようにします」
僕は誾の意見を却下すると、誾はあっさりと意見を取り下げた。特に悔しそうな様子は見受けられない。
誾としてもその方が都合が良かったんだろうけど、僕にEPを使わせることは言い出せなかったみたいだね。まぁ、EPを稼ぐことの重要性を説明しているし、それもしょうがないか。
必要と思えば、EPを使う事に躊躇う気は無いんだよね。
僕はちゃんと決断できる人間のつもりだよ。
そんな訳で、僕たちはホームのゴブリンの集落を拡張することで話をまとめた。
人数が増えればできる事の幅も広がるし、メリットは少なくない。
デメリットとしては必要な食料の増加だけど、そこは今から対処していくしかないよね。とりあえずは猪の死体の固定でも追加でしておこうか。お肉があれば飢えずに済むよね。
服の方がボロになる事に関しては諦めてもらうしかないかな。
食事も僕の持ち込みは「すぐには」与えないってことで、まずは様子を見る。
ある程度成長し、使える人材になったら多少の待遇改善はするけど、今の信綱や誾たちのレベルにはできないだろうね。
……さすがに、服とかをEPで固定する余裕を作ることはできないから、ある程度の改善って言い方しか無理なんだ。
ビジネス書には「功績に対する報酬は、地位や待遇の改善ばかりにしてはいけない。『御恩と奉公』で破綻した鎌倉幕府のようになるので、一時的なもので済む金銭や形の無い名誉と言ったものに留めるべきだ」とあるしね。
組織として継続的に続けられる内容で抑えないと、必ず破綻するっていうのは常識みたいだ。
ちなみに、「功績に対する立場の上昇は愚策の一つである。現場で活躍した兵士に土地や隊長の地位を与えるような真似をしてはいけない。兵士として活躍した人間が兵士を率いる隊長として活躍できるかは別問題であり、土地の管理は兵士の仕事は関係ないからである。より活躍できる場を与え、年金の様な老後を保証する仕組みの方が重要である」とも書いてあった。
問題点は理解できるんだけどね。でも、具体的にどうすればいいかは悩ましいところだ。
活躍に対する公平公正かつ有効な報酬ってなんだろうね?
その場その場で考えるけどさ、何か良さ気な実例も載せておいてくれると嬉しいんだけどなぁ。




