風呂掘り
僕はダンジョンの入り口周辺の地図を取り出す。
この地図は、ダンジョンに来てからチマチマと書き続けてきたものだ。
最初は大雑把な目印を中心に記録し、時に写真を撮り、時に目印になりそうなものを探し、植生を調べ、動物との遭遇記録を残した。
そうやって作った地図はゲームなどの攻略情報の写真マップほど洗練されてはいないけど、これを見れば今できることが大体わかるようにしたつもりなんだ。
僕はメモに従い、探し物を確保する。
これ重いから、一度に数を運べないのが難点だよね。まぁ、一か所に固まって落ちているわけじゃないけど。
台車とか使って運べれば楽なんだろうけど、道なき道を進むので、キャスターはあんまり役に立たないんだよなぁ。
僕は運んできた荷物、大きな石を新しく確保した土地の一画に置く。
僕は石の種類とかよく分からない。分かっているのは黒曜石とか御影石とか大理石とか、そういった高級な石ではないことだけで、なんかよく分からないけどとにかく大きい石なんだよ。
まぁ、簡単に壊れそうじゃない奴を選んでいるよ。
大きな石って言うと買ってまで欲しがる物も結構あるわけで、建材としてはポピュラーなものだと思う。ヨーロッパの建築物とか、有名なものはほぼ全部石だからね。
でも、石は実際に自分で回収するとなると大変だ。重いし、運ぶ手段が限られるし、とにかく大変なんだよ。バスケットボールぐらいのサイズになると10㎏は確実にあるんじゃないかな? 運が悪いとぎっくり腰になっちゃうかもしれない。
使い勝手のいい物じゃなかったら絶対に集めたりしないよ。
今はとにかく数が欲しいので、今後もダンジョンがリセットされるたびに同じ所を回って回収するつもりなんだ。
購入した土地って小さい石ころはそれなりにあるんだけど、建材としてまともに使える石は全くないからね。良くも悪くも僕に有効な何かを与えすぎない、嫌らしいところを攻めている。
だからこうやってダンジョンから集めるしかないんだ。
ただ、努力した分だけの見返りはあった。
僕は≪搬送≫スキルを手に入れ、回収した大きな荷物を運ぶのが上手くなった。
久しぶりの新スキルに思わず万歳をしようとしてしまったよ。
ただ、気になるのは搬送の意味。
搬送は車とかで荷物を運ぶって意味なんだよね。
僕、普通に自分の手で荷物を運んでいたんだけど? なんで搬送?
世の中は理不尽と不思議でいっぱいだね。
僕は集めた石をいったん横において、穴を掘り始めた。
作りたいのは露天風呂。お湯は温泉じゃないけど、いつか作り上げてみたいと思うわけで。
汗と土にまみれながらも、僕は一人で穴を掘る。
ゴブリンたちの手は借りない。
これは自己満足の追及で、ダンジョン攻略と関係ないし、技術開発のために頑張るみんなの手を煩わせたくない。
僕も何かやったほうが良いとか、そういった真っ当な意見は見ないふり。
最低限のお仕事はするし、今はそれで我慢してもらいたい。
一応、穴掘りはスキルの熟練度が加算されるから無駄じゃないし。
なんでこんな事をやっているのかと言うと、秘密基地みたいで楽しいから、なんだよね。
僕はもう20歳を過ぎ、法的にはまだだけど体感時間ではすでに21歳で、だけど心は少年のそれを持っているんだよ。
だから少年的にはホームの改造とかが楽しいわけで、ついつい頑張っちゃうんだよ。
お風呂の追加とか、いかにも秘密基地っぽくて楽しい。リアルではできないことをするのが楽しい。
普段は殺伐としたことをしているから、こんなことでもして心のバランスを取っているんだよねと、冷静な自分がどこかで言っている気がした




