風呂
カレー祭りの後、ゴブリンたちの要望により、アタック2回につき1回はカレーを用意することにした。
毎回カレーというのも飽きを早めると思うので、2回に1回で妥協したつもりだよ。
誰かが言ってたセリフだけど、「美味い物は少し足りないぐらいでちょうどいい」らしいからね。
野営の訓練が終われば、生産メインになる。
僕が今、推し進めているのは、「衣類の作成」と「窯作り」の2つ。
全員でやるわけじゃないから、それぞれ3ゴブ編成で同時進行をしている。
僕はフリーとして、信綱・誾・義輝の焼き窯チームと、蔵人・卜伝・義姫の服飾チームだ。
前者の方は、たき火でレンガを焼くところからやり直し中。たき火でも土器レベルのレンガを作ることができるみたいだから、まずはそこから頑張らせている。
泥をこねて乾燥させただけのレンガの窯は「無い」らしいからね。土器でいいから、もう少しまともな素材を使ったほうが良いみたい。
後者の方は綿花を少しずつ集めて紡績にチャレンジさせている。
採取だけなら卜伝と義姫でいいからと、蔵人は糸車を作りだした。糸巻の機械は複雑な構造は無理でも、手回し糸車ぐらいなら相当頑張れば作れるみたいで、蔵人が≪木工≫スキルで頑張っている。
材料の綿花が少ないのがネックだけど、何もせずに手をこまねいているよりはマシかな?
EP交換っていう保険もあるから、無駄にはならないだろうね。
ゴブリンたちの頑張りはそのうちスキルって形で実を結ぶと、僕は信じている。
今回、僕は追加の土地の購入をすることにした。
理由としては、窯作りのための土地が竹藪の一角では手狭であること、服飾のための専用の小屋でもあったほうが良いっていうこと、そして新しく何かやってみようって気分であるからだ。
実際問題として、服飾はともかく焼き窯は火事の元なので、竹藪から少し離れたところでやったほうが良い。
ホームで火事はさすがにシャレにならない。プレイヤーの死因は公開されるので、世界一間抜けなオーヴァーランダーとして死んだ後の数年は教材として扱われてしまうかもしれない。
ちなみに、現段階で間抜けな死因No.1は「嫁さんとダンジョン内でエロいことをしている最中に、ゴブリンに後ろから殴られ殺された旦那」である。
盛ってイク前に逝ったその馬鹿は、無修正の下半身をさらした動画がネット上に投稿され、生き残った嫁さん――強制帰還で逃げ延びた――共々、「ダンジョン内でエロいことをするのはやめておけ」という教訓にされている。
今でもネット上で馬鹿丸出し、下半身丸出しのプレイヤーとしてネタにされている。
死者に鞭打つようだが、僕も含め、それを止めようという奴はいない。過ちを繰り返さないためにも、そんな馬鹿がいたという事を後世に伝える必要があるんだよね。
そんな火事対策の土地購入は、4コマ追加になる。10m×10mというわけだ。
ホームがあって、竹林があって、その向こうに竹で家を作ったんだけど、家の反対側に新しい土地が広がった。
竹藪も同じ4コマ、竹の家が2コマなので、これで土地を10コマ買ったことになる。1コマ25㎡なので、全部で250㎡ってことになる。
ネットで検索してみたんだけど、250㎡のお値段は、日本平均で4200万円ぐらい。EPで1000P分であると考えると、100万円ぐらいで4200万円の資産を手に入れたことになる。
日本の土地とゲーム内の土地を比較することに意味があるわけではないけど、ダンジョンに隣接するホーム近辺の地価はすごく安いよね。土地を持ち帰る手段はないけど、持ち帰れるなら土地成金になるのが一番早いってことになりそうだ。
……嘘です。
日本の平均は4200万円ぐらいだけど、岐阜県ならその3分の1以下、1300万円ぐらいにしかならない。
土地は東京がダントツで高く岐阜の約20倍だったり、大阪・神奈川・京都・名古屋といった都会の地価が平均以上ってだけで、残りの県は平均未満なんだよね。
なんでここまで土地の値段に差が出るのか、分かるんだけど、僕は分かりたくないよ。
本当ならただの土地じゃなくて、そろそろ畑に手を出そうかと思っていたんだよね。
それを取りやめてでも土地を買ったのは、そこに窯を作るだけでなく、五右衛門風呂でも設置してやろうという欲があるからなんだ。
最初の方は、水道が無かったからお風呂に入らず頑張っていた。
水源を作ってからは、これでお風呂を、と思っていたんだけど、結局は風呂を沸かすための手段が無くて諦めていたんだよ。
お湯で濡らしたタオルで体を拭くのが精いっぱいだったんだ。
一応は最初にダンジョン内に作った解体用の穴。あれを風呂にしてしまおうと思っていたんだけどね? 水をためるだけで大仕事、それを湯に変えるために焼いた石を放り込んで沸かしてみようとすると湯の温度調整に失敗し、実際に入ってみれば泥が混ざって泥風呂になりさっぱりした気分になれない。
そんなこんなで風呂は割と諦めていたんだよ。我慢していたんだよ。
でも、そんな状況を打破すべく土地を買って、風呂を作るんだ。
さすがに自力で作れるとは思っていないから、最初だけはEPで買うことにするけどさ。
そのEPは、今は無いから、今は土地を買っただけだけどさ。
僕はこっちでも風呂に浸かってゆっくりしたいんだ。
風呂があれば、きっと僕は今より頑張れる。
今より前に進めるはずだよ。
……風呂に入りたいからって、日帰りにこだわらなければね。




