乾燥レンガの窯
僕らはレンガという名を付けただけの、乾燥した土の塊を積み上げる。
これでレンガを焼く窯を作ろうという試みだ。
ただし、成功するとは思っていないのがミソなんだけどね。
スキル欲しい、経験を積みたいってだけの練習なんだよ。
人間もゴブリンも、何か初めていきなり上手くいくなんて言うのは幻想なんだよね。
基本は積み重ね。やって覚える、成功している他人の言葉を実感するところから始めないとね。
作ったレンガは、大きさだけは同じサイズで出来ている。
型を使って作ったから、取り出すのに失敗さえしなければ同じ大きさになるのは当たり前なんだけどね。中に入れる泥は結構時間をかけてかき混ぜたから斑も無かっただろうし。
で、できたレンガを円形に積む。
四角いレンガをそのまま積んで円を作れば、自然とレンガの外の方に隙間ができる。できた隙間は泥を塗って塞いでいく。
次、2段目・3段目と積み重ねるときに、やや内側に倒すことで完成形を球状にしていくんだけど、これがかなり難しい。1段目と2段目の間に泥を接着剤のように塗っておくんだけど、2段目がすぐに崩れてしまうんだよ。
理論上では左右のレンガが干渉しあって落ちにくくなるはずなんだけど。理論は机上の理論でしかなかったようで、全然うまくいかない。なんとかたどり着いた4段目に至っては、最初の一個を置くことすらできない。すぐにずり落ちてしまう。
アーチを作るって難しいね。
仕方がないから、内側に竹で枠を作って、その上に乗せる形で何とか窯を作る。
多分だけど、内側の枠が焼け落ちたらそのまま崩れそうな予感がするけど、あえてその可能性からは目をそらした。
失敗も経験しておこうっていう試みなんだよと、誰に言うわけでもなく心の中で弁明をしておく。
失敗が経験値になるのって、全力で挑んだ時だけなんだよね。中途半端なことをしても駄目なんだ。全力で挑むからこそ、何が駄目なのかが分かるんだよね。
火の扱いは、僕が一番巧いと思う。
スキル関連で言えば、≪料理≫ぐらいしか火入れに関連付け出来そうなのが無いんだよね。ほかの皆は≪鍛冶≫や≪窯焼き≫なんていかにもなスキルどころか≪料理≫スキルすら持っていないんだ。
だったら、逆の発想で僕以外が練習するべきだと思った。
「キュー……」
最年少・義姫が今回の生贄――もとい、練習生に選ばれた。
失敗が前提なので気にしなくていいと言ってはあるけど、それでプレッシャーを感じない奴は滅多にいない。
これから窯の中に火を入れようという義姫はガチガチになっている。
窯の中にはたくさんの燃料用の木材と、一応形にしてみただけのレンガが入っている。
火付け用には枯れた葉っぱだけでなく、キャンプ用品の可燃ゲルも使っている。火付けに失敗するということは無いだろう。
僕に背中を押され、義姫が観念したように火の点いた松明を窯の中に入れた。
パチパチと中に入れた可燃物が燃える音がする。空気穴から勢いよく黒い煙が立ち上り、火入れが順調であることが分かった。
窯には外からふいごの替わりになる自転車の空気入れで空気を入れれるようになっている。だけど、自転車の空気入れって出力が弱いんだよね。あんまり頑張る意味もなさそうだよ。
いや、それでもやるんだけどね?
一応は、シュコシュコと空気入れを上下させれば煙の勢いが変わるからね。
……ほんの少しだけど。
僕は空気入れを相手に頑張る信綱らを見ながら、しばらくその場でぼーっと座っていた。
そして、窯が崩れる音にびっくりして倒れかけてしまった。
やっぱり強度が足りないみたいだねー。




