警戒・対策
僕らの戦力増強はうまくいっているようで、少しでも前に進んでいる実感があると嬉しくなる。
ゴブリンはスケルトンと並んで最弱モンスターとして設定され、それに見合った実力しかないんだろうけど、それでも強くならないわけじゃないし、種としてのポテンシャルが低いというだけで実力はそれなりに上を目指せるものだと思う。
つまりだ。
ゴブリンを戦力として組み込む僕の判断はそこまで間違ったものではない。
先に行ける選択をした。それが嬉しいんだ。
僕は信綱とハイタッチをして、卜伝とも手を打ち合って勝利を祝う。
そしてそのまま集落を殲滅し、ユニークゴブリンだけ拘束しても生かした状態でその日の仕事を終えるのだった。
夕飯は、鉄板ならぬ石板で肉を焼いて食べるのが定番だ。
鉄板は重いから持ち込むのが大変なので、現地というかダンジョンで見つけた形のいい石板を鉄板の替わりに使っているんだ。
石板を置いている、仮組した竈に火を入れれば、すぐに石が熱くなって肉を焼き始める。
野菜も食えって言われそうだけど、野菜の方は持ち込みが面倒だから竹藪で採れるタケノコぐらいしか植物がない。だから基本は肉パーティなんだ。
肉に絡めるタレは持ち込み。
一本300円ぐらいの焼き肉のタレは、少々処理をミスって味を落としたお肉が相手でも、雑味をごまかし美味しくしてくれる。
タレが好みに合うのは僕だけでなく、蔵人と義輝もだ。信綱や誾、卜伝はタレよりも塩コショウ派である。義姫はどっちのお味もショックを受けるものだったらしく、好みなど考えずに肉を口に入れていた。
この件についてはどちらが正解だとか言い出す気は無いので、好きにさせているよ。
「――成程。確かに、このままでは拙いのかもしれませんね」
「うん。ホブゴブリンはいずれもっと強くなるだろうし、装備も更新される。柵とか罠も工夫しないといけなくなるよね」
初日の夕飯は、ミーティングを兼ねている。
僕は誾と蔵人と、今後の話を詰めていた。
僕はダンジョン攻略の実戦部隊長で、全体のリーダーでもある。一番偉いし、王様や神様ってとこだね。将軍も兼任だけど。
誾はゴブリンたちのまとめ役で、国で言えば宰相的ポジションだ。そして通訳でもある。
蔵人は生産関連の総括。誾と立場が被っているように見えるけど、この2匹の間には指揮官と職人といった差がある。一緒に話をする方が効率がいい。
信綱は僕の部下だし、リーダーではない。卜伝や義輝、義姫はまだ下っ端なので話はリーダーがすればいいって所かな。
人数が少ないんだからみんなで話せばいいって言われそうだけど、組織を作るうえで役割分担や上下関係の構築は必須なんだから、今のうちに慣れておこうってことでこんな方法をとっている。
「ギャ!」
「蔵人は、柵の近くに落とし穴を用意すべきではと言っています」
「落とし穴かー。固定化するのにどれぐらいかかるかなぁ?」
蔵人はまず、柵の強化よりも柵周辺に罠を追加するべきだと進言する。
でもねぇ。
罠を固定化するのって、そこそこEPを使うんだよなぁ。柵の周りにはもう罠がある程度設置してあるし、固定化してあるし。追加は間違った選択じゃないんだけど、その前に罠の種類を増やしたり質を上げることも考えたほうが良いと思うんだよね。
「私は、迎撃部隊を編成するべきだと思います。
初日だけの決戦ですから、全員で戦い、皆の戦闘経験を増やすべきではないでしょうか。
敵が強くなるのなら、我々も強くなればいいのです。長様や信綱だけで戦力が足りないのであれば、皆で戦い、皆で強くなりましょう」
誾は、ゴブリン全員で戦えばいいと言う。
もしかすると、この先、信綱や卜全だけでは手が足りなくなる可能性を考慮し、それに備える意味でも戦闘経験を積むのは重要だと力説する。
僕は兵農分離というか、専任の軍人を作り群だけで戦うべきだと思っていたけど、誾はまだその段階にないと考えているのかな。
言われてみれば、人数が少ないうちから役割にこだわると何かあった時の補充人員を用意できない。
仕事も誰かが休んだ時にフォローに回る人間を用意するものらしいし? 僕らもその考えを取り入れるべきなのかなぁ?
誾と蔵人は意見が違えたけど、結局は決定権を持つ僕の判断待ちという態度だ。無言で僕の考えがまとまるのを待つ。
「まずは全員で戦う方から始めようか。
蔵人は相手の動きをよく見て、使えそうな、有効そうな罠を現地で考えること。戦場でしか思いつかないこともあるし、しばらくは付き合ってもらうよ」
僕の出した答えは玉虫色。
誾の意見を当面の方針にしつつ、最終的には蔵人の意見に寄せるというもの。
どっちにも配慮しているような、中途半端な意見。
どちらかと言えば誾が悔しそうで、蔵人が嬉しそうだ。
当面の方針は間に合わせで、結局は蔵人の意見を選んだと思われたかな?
蔵人の意見は即効性や具体性に欠けるってことでもあるんだけどね。あとで誾にはフォローしておきましょうかね。
ミーティングはそこで終了。
ここからは純粋に食事を楽しむことになる。
僕は初日限定ってことで、肉を食べつつ、凍らせてから持ち込んだ、そこそこ冷えたジュースを飲むのだった。




