サーヴァント
「1レベルゴブリンって考えれば、妥当なのかな?」
「クキュ?」
僕は集落の掃除を終えると、ホームに戻ってきた。
そこで待っていたのは、小奇麗になったゴブリンの子供である。サーヴァント化した影響なのか、この、ちっこいゴブリンは清潔になっていた。
綺麗なのは良いことだし、気にしなくてもいいよね。
見た目は緑色で耳が大きくて毛の無い子供といった風貌だけど、小さいってだけでどこか愛嬌があるように見える。
もしかしたら自分の初サーヴァントっていうのが影響しているのかもね。
どちらにせよ、このことは長い付き合いになるといいな。
……ゴブリンは最弱モンスターだからね。すぐに死ぬんだよ。
まずは何ができるのか、どれぐらいできるのかを確認してみる。
ゴブリンの身長は僕よりもずっと低いので、喋りかけるためにかがんで顔を合わせている。
とりあえず、その能力が数値化されてくれないので、僕はゴブリンに手のひらを向け、全力で押してみるように命令してみた。
「キュウゥゥ~~!!」
残念ながら、このゴブリンの身体能力は見た目相応らしい。顔を真っ赤にしてゴブリンが両手で僕を押すんだけど、力を入れなくても70㎏の僕はピクリとも動かず、非力であるとしか言えなかった。
まぁ、元から期待していなかったけどね。
その後に駆けっこをしてみたけど、僕は5歳児の駆けっこがどれくらいが普通なのか知らないんだよね。
残念ながら、足の速さは判断不能。僕と比較するなら論外って所かな。
「キュゥ~~……」
パソコンのフリーソフトにあった神経衰弱で記憶力を調べてみるけど、全然札が一致しない。
ゴブリンは覚えきれない札に情けない声を上げている。
ただ、僕の言っていることを理解できる頭はあるし、なんとなくだけど会話が成立する。
サーヴァント補正と言ってしまえばそれまでだけど、
身体能力や頭の良さをはじめ、その他の能力は子供相応としか言いようがない。
身も蓋も無い言い方をすれば、足手まとい。
子供だからしょうがないよね。まだ将来性があるんだから問題ないよ。
そう言えればいいんだけど、何の仕事もさせないっていうのもだめだと思うんだよね。何かできることを考えて、頑張れることを見つけてあげないといけない。
何もできないなら、できるように訓練するしかないかな。
僕はゴブリンにバールを与えて、素振りをさせることにした。
両手でバールを持たせ、すっぽ抜けないようにしっかり持たせる。まぁ、外でやっているからバールがどこかに飛んでいこうが壊すものなんてないと思うけど。
ゴブリンはご機嫌になり、バールを振り回すようになった。
とりあえず剣道の面をするように言っておいたのだが、ゴブリンはバールを上下に、無茶苦茶に振り回す。
「あ」
「キュッ!?」
そしてバールがすっぽ抜け、あらぬ方へと飛んでいく。
子供の腕力だけに、すぐそばに落ちたけど。
失敗して落ち込んでしまったので、頭をなでてご機嫌を取ってみる。
すると効果はてきめんで、すぐに笑顔になって素振りを続けはじめた。
その様子を見守り、しばらくして疲れ果てたゴブリンを抱えて、僕はホームの敷地内に戻った。
今日は初日から殲滅戦なんてやっていたから、かなり疲れた。
だからこんな時はがっつり食べて、英気を養うべきだと思う。
僕はゴブリンと一緒にコンビニ弁当を食べる。たかがコンビニ弁当と馬鹿にすることなかれ。デブエット計画と銘打たれたこの弁当は、1食900円もする超がっつり飯なんだ。カロリーも通常の弁当の3倍はあるんだぞ。
それだけじゃない。持ち込んだ焼き豚を火にかけ、軽く炙って脂を溶かしてから塩を振り、口にする。
美味い。
弁当のナポリタンや炙った焼き豚は相性がいい。
ナポリタンに入っているベーコンも悪くは無いんだけど、僕はこの焼き豚の方が好きだ。ナポリタンを食す箸が進む。
一緒に入っている唐揚げ、チャーハン、カルボナーラ、ポテト、揚げ餃子、どれも美味い。
脂で口がバカにならないように、途中でお茶を飲んだり漬物を摘まんだりしながら一気に食べれば、あっという間に弁当は空になる。
ゴブリンの方を見れば、与えたカロリーフレンド、スティック状の栄養食を一心不乱に食べていた。
口の中が乾くのか、少し食べては水を飲み、ときどき思い出したように焼き豚にも手を伸ばす。箸はまだ使えないし、フォークなんかも用意してなかったから素手で食べている。その辺もあとで教えないといけないね。
そうやってご飯を食べるゴブリンを見て、ふと思い出した。
名前、まだ付けていなかったね。
うん。
今の今まで名無しで通していた僕は結構ひどいと思う。反省が必要だね。
だけど反省する前に、僕は適当な、そして有名すぎる「ゴブ~~」シリーズ以外で何かいい名前がなかったかなと考えてみた。
そして、普通の人ならゴブリンに付けなさそうな名前を与えることにした。
「上泉伊勢守信綱」
「キュ?」
「お前の名前だ。今日からお前は上泉伊勢守信綱だ。普段は信綱って呼ぶよ」
「キュイ!!」
カロリーフレンドを食べていた信綱だけど、僕が名前を与え、そう呼ぶと、喜びを現すように両手を上げた。




