ゴブリン殲滅戦④
ゴブリンの集落まで来てみた。
家屋に火を付けて追い立てたわけだけど、全部の家が全部焼けるわけじゃない。むしろ焼けていない家の方が多い。
こういった火災では、集団心理で、みんなで避難をしてしまう。誰かが逃げ出せば釣られるように他の誰かまで逃げ出してしまうものなのだ。
そもそもゴブリンが火を使うかどうか知らないけど、もし使えるなら大きな火は恐怖心を煽るだろうからねー。冷静な対処っていうのは難しいだろう。
使えないときは水で消すっていう判断もできないと思う。いや、火を消すのに有効な手段っていうと砂の方が良かったんだっけ?
むぅ、僕も勉強しなおしたほうが良いかも。消火器なんてこっちには無いんだからさ。
無事な家屋に近寄ってみると、僕の足音が聞こえたのか、ばたばたと走るようにちっこいゴブリンが姿を見せた。問答無用で、スコップで殴り殺す。
ちっこいゴブリンの身長は僕の腰よりも低い。身長80㎝前後は5歳児かそこらの身長だっけ? とにかく子供のゴブリンらしい。
「ギャーー!?」
ついでに母親らしきゴブリンがいたので、そっちも駆除。容赦はしない。
ほかの家屋にも潜んでいるゴブリンはまだまだいたようで、僕は戦闘能力のない、非戦闘員ゴブリンを殺して回る。
こうやって集落の状況を考えると、ゴブリンはそれなりに村落社会を形成していたようである。
外で狩りに出る大人の男と村に残る女子供といった役割分担をして、家族単位ならぬ村単位の効率化を図っていたようなんだ。
で、あちこち見て回れば火を使っていないことが容易に想像できる。
かまどの類も無ければたき火の後もないからね。僕が焼いたあたりは別として、他に炭とか灰が無ければ火を扱っていないと推測できる。
付け加えるなら農耕もしていないね。採取はしているけど、完全に狩猟民族だ。
文字や絵画って文化もないし、ここから推測できることとして、ゴブリンはまだ石器文明の初期にいるってこと。
地球の原始人なら、地球全体が寒くなることで火を使うことを覚え、そこから初期の鉄器や青銅器を扱うようになるんだっけ。
ありがたい事にゴブリンの文明はそこまで進んでいないんだね。
金属製の武器防具を扱いだすまで、まだ猶予はあるのかな?
ゴブリンの文明レベルを地球人のそれに当てはめられるかは議論の余地が残るとして、僕は探索を続ける。
猪の皮を剥いで敷布団か毛布にするって所までは考えついているみたいだ。骨を使った道具も見つかっているし、ゴブリンも自分たちなりに創意工夫をしているのが分かる。
……頭蓋骨の器を使って何かを保管する、かぁ。木製の箱を作るレベルには至ってないんだね。
ぜいたくを言うなら、僕でも欲しがるような道具があればいいんだけど。
まぁ、さすがに無理があるよ。
ゴブリン相手なら、まだまだ素人で≪木工≫スキル頼りでも僕の方が上なんだから。
そうやってゴブリンを殺し、集落の中を歩き回っていると、ちっこいゴブリンを殺したタイミングでアナウンスが入った。
『ユニークモンスターを殺害しました。サーヴァント化します』
ユニーク?
え?
突然のアナウンスに驚いたけど、よくよく考えてみればそこまで不思議ではないと気が付く。
今回のゴブリン殺害数は過去最多で、今までなら殺していなかったミニゴブリン?も殺している。
そうやって戦うゴブリン以外を殺したのが初めてなら、初めてのユニークモンスター殺害も、あったとしても不思議じゃない。
強いて言うなら、“ちみっこ”だけに戦力として全く期待できないことかな。
サーヴァント化して大きくなるかもしれないけど、たぶんないと思うし。
1ステージ目の1フロア目。
そこで手に入るユニークモンスターなんだから、逆に納得がいくと僕は思った。
最初の最初にふさわしい、最弱中の最弱モンスターが手に入る。
先に進めばもっと強いモンスターをサーヴァント化できるだろうし、こんな所で強いモンスターが出ないだけ、まだ良心的だよね。
こうなると今日のホーム帰宅が楽しみだね。
他の、まともなプレイヤーなら喜ばないかもしれないけど。僕にとっては期待以外の感情がないほどだ。
下手に大人のモンスターを手に入れるより、まっさらな子供モンスターの方が面白そうって考えてしまう。
最弱モンスターの一角を担うゴブリンの子供。
きっちり育てたらどこまで強くなるだろうね?
っと。
考え事をしていた僕の目の前を、ゴブリンが振った骨が通り過ぎる。
危ない危ない。
今は目の前のゴブリンに集中しなきゃ。
非戦闘員ゴブリンに殺されるなんて間抜けはしたくないからねー。




