ゴブリン殲滅戦③
普通のゴブリンが12歳の子供とすると、最後に現れたそいつは僕と同じ20歳ぐらいの大きさのゴブリンだった。
よくあるファンタジー小説なんかの知識で言えば、ホブゴブリンっていう上位種族か、ゴブリン・リーダーとかゴブリン・ジェネラルとか言う役職もちなんだと思う。
細かい事は分からないけど、ただ「強い」っていうのだけははっきりと感じ取れた。
「グゥ……グルゥアァァーーッ!!」
「「「グギャァァーーッ!!」」」
ホブゴブリン(仮称)は、大きく息を吸うと叫び声をあげた。
それに合わせ、配下らしき普通のゴブリンも叫ぶ。鬨の声という奴だろうか。普段以上にプレッシャーを感じる。
ホブゴブリンは1匹だけど、配下のゴブリンはまだ10匹はいた。
そうすると、あの集落には40匹以上のゴブリンがいた計算になり、思った以上に大きな集落だったことが分かった。
もっとも、今頃分かったところで何の意味もないんだけどね。
多勢に無勢、しかも未知の強敵まで追加された最悪の状況。
油断したつもりはなかったけど、思っていた最悪の更に上を行かれた気分だよ。これ、本気でやばいね。
そうはいっても、ここで逃げるっていうのはやめておいたほうが良いと思う。
だって、ホブゴブリンは僕と同じぐらいの大きさなんだよ。もしも走って逃げたとしても追いつかれる可能性が高いし、ここで逃げた場合は地の利を活かせなくなる。
怖いけど、ここで戦った方が生き残る目が出てくるはずだよね。
こんなことなら火計は残しておきたかったなと思うけど、使っちゃった以上はもう使えない。
今回の火計は油や可燃物を仕込むことで実戦に足る火力を得たんだけど、基本は一回限りの使い切り。油を5リットルと大盤振る舞いをしたんだよ。
つまり、仕込みや準備がないと火計は使えないんだ。
木を使った投石罠も使っちゃったし、今は撒き菱ぐらいしかまともに機能してくれない。
もっとも、罠はこれだけじゃないんだけどね。
「かかってこい!!」
僕はホブゴブリンに向けて啖呵を切る。
もちろん挑発のつもりだ。
だけど、ホブゴブリンは狡猾な僕に対し、慎重な一手を打った。
「グギャッ!」
「グギィッ!」
ホブゴブリンは配下のゴブリンに命令し、僕に向けて特攻を仕掛けさせた。嫌らしいことに、2匹同時で。
僕は投石でそれを迎え撃つ。
一度に二匹であれば何とでもなる。ここまでの狩りでさんざんやってきた事だからね。
1匹のゴブリンの頭部に大きめの石が命中。行動不能にする。
もう1匹にも足に命中。残り10mも無かったから結構な勢いで当たって、多分足の骨を折った。
これで2匹とも行動不能だ。殺すのは後で十分な状態になったはずだよ。
ただ、この2匹は陽動だったみたいだ。ホブゴブリンの方に意識を向けると、配下ゴブリンの数が減っていた。残り4匹しかいない。
おそらくだけどいなくなった連中に柵を迂回させるつもりなんだろう。僕にとっては好都合な流れだ。
今いる場所の左右にも罠は仕掛けてあるんだよね。
ここは僕のホームなんだよ。
「来ないのか!? この臆病者め!!」
僕は、人間の言葉なんて分からないだろうけど、ホブゴブリンを馬鹿にした。
こういった言葉は、意味が通じなくても馬鹿にしている事だけはなんとなく分かるらしい。馬鹿にされたホブゴブリンの顔が赤くなる。
ホブゴブリンは野球のバットぐらいの棍棒を手に、配下を後ろに連れて僕に向けて突進してきた。
僕は相手が挑発に乗ってくれた事に、言葉にしないけど感謝をして、“ボーラ”を振り回してから投げつけた。
ボーラとは、狩猟に使われる投擲武器だ。
三つ又の紐の先端それぞれに重りを付け、遠心力を乗せてから投げつけるように使う。
先端の重りがぶつかれば骨を砕くこともできるし、紐の部分が絡まれば動きを封じることもある。
武器を使って受け流すこともできないので、かなり使いやすい武器だってネットのみんなが言ってた。
ホブゴブリンの強さは普通のゴブリンよりも上だったかもしれないけど、頭の良さで言えば普通の強化ゴブリンとそこまで変わらないみたいだ。こん棒でボーラを受け流そうとして、こん棒にボーラが絡まり、回転している重りの一撃を側頭部に受け、そのままノックダウン。
しかも後続の配下が勢いよく走っていたから、ホブゴブリンはゴブリンに踏まれてしまう。
小さなゴブリンに踏まれても、さすがにダメージはそこまで大きくないだろうけど、それでもノーダメージとはいかないだろう。
それにいきなりホブゴブリンが転んだことで、足を取られて何匹かのゴブリンが近くに転んだ。
そうなると周りの仲間が転んで倒れたのを目の当たりにした最後のゴブリンが、パニックを起こして逃走を始める。ついでに撒き菱エリアに行って倒れる他のゴブリンのお仲間となった。
僕は倒れるホブゴブリンたちに対し、離れたところから石を投げてとどめを刺そうとする。
これで近くに寄ったら、いきなり起き上がられて襲われる危険性が高いからね。そこは油断せずに行くよ。
特にホブゴブリンに対しては、バールを突き刺さるように投げつけて反応を見る。
骨の多いところだと難しいんだけど、脇腹のあたりならそこそこ刺さりやすいからね。10mぐらいのところからやり投げの要領でバールを突き刺せば、ホブゴブリンの体がビクッと震えたけど、それ以上の反応は見せなかった。
僕はふひーと大きく息を吐くと、今回の戦果の大きさに口元を緩めた。
推測だけど、40匹ぐらいのゴブリンを殺して、ホブゴブリンも殺せたんだから、ゴブリンだけで60Pぐらいで、ホブゴブリンはなんとなくだけど5~10Pぐらいだろうから、65~70Pも稼げたはず。
油とかの出費はあるけど、1日で稼いだ額としてはこれまでで最高額だと思う。
つまり、とても効率がいい。
ゴブリンの集落や用意した柵は固定なので、同じことを何周もできるんだよね。
ほかにもゴブリンの集落があればアタック1回で100P以上のモンスター殺害Pを稼げる。運が良ければ200Pも狙えると思う。
……ゴブリンがさらに進化しなければ、だけど。
最後に何となく嫌な未来が見えた気がするけど、安全に、大きく稼げるのは嬉しいよね。
僕はゴブリンの血と臓物と、焼ける臭いの漂う戦場後で、1時間の休憩を挟んでから“元”ゴブリンの集落に足を向けた。
ゴブリンの集落に火を放ったわけだけど、取りこぼしがあるかもしれないし、集落の中には水源があるかもしれないからね。確認は大事だと思う。
なお、柵の横を目指したゴブリンは落とし穴に引っ掛かり、その中に仕込んでおいた木の棒に突き刺さって死んでいた。
落とし穴最強伝説。
おお、伝説は本当じゃったか……。この僕の若い目の代わりに、誰かよーく見ておくがいいよ。




