ただ、願う事
親の遺志を、とか考えても、結婚問題は僕一人で完結する話じゃないから。
付け加えると、僕って立場的に微妙なんだよね。
「北朝鮮、中国や韓国といった外国人とだけは結婚しないでくださいね」
「元からそのつもりですよ。国際結婚で候補を考えるなら……フィリピンかブラジル?」
お役人の工藤さんと、僕の結婚について少し話してみた。
やっぱり国としては僕みたいな立場の人間が国際結婚をするのに難色を示す。特に、一部の国とは距離を置くように言われた。名前が出なかったけど、他にも渡航をすると危険だよって国とは一通りアウトみたいだ。
まぁ、当たり前だよね。
「……アメリカとかではないのですね」
「身近って考えると、そっちの方が多そうなイメージがありません? 中国がアウトなら台湾も距離をとったほうが良さそうですし」
「日本としては、台湾は独立国なのですけれど」
「中国は自分の国の一部だと言い張っている。面倒ですね」
「面倒なんですよ」
なお、台湾については扱いが複雑だ。
わがままを言っている国があるからね。しょうがない。
「結婚相手の相談なら受け付けるよ。冒険者ギルドでは冒険者同士の婚姻を推奨しているからね」
「女性冒険者って、いるの?」
「そりゃぁいるさ! 考えてみなよ。若いうちはいいけど、『若返りの薬』って言われて、20を過ぎていれば、誰も動かないなんてはずがないだろう?
頼れるパートナーであることが条件になるけど、協力して欲しいって人はそこそこいるよ」
「ああ、そう言う訳かぁ」
ギルマスの方は普通にお見合いを推奨された。
自分の所でそういう仕事をしているんだから、勧めない方がおかしいとも言うけど。
このお見合いは冒険者ギルドの基本事業だからか、登録料とかは取られない。
一応は登録しておくことにした。
でも……僕は相手に何を求めているんだ?
何も思い浮かばないんだけど。
「長様長様! キズナがいるの!」
「はいはい。でも僕にその気は無いから」
「……」
「誾。僕にその気は無いから」
「残念です」
現状に閉塞感を感じているから、どうせだからと誾に相談してみた。なぜかキズナもいるけど。
二人から相手を求めるプレッシャーを感じたけど、やっぱり僕に応える気は無い。
まぁ、今の誾は本気で言っているという訳じゃないけど。
「ですが長様。今のままはあまり良くありませんよ」
「それは分かっているんだけどね」
「いえ、そうではなくて」
どうしようかな?
そんなふうに上の空で誾と話していると、誾は表情を真剣なものに変えて僕を見た。
「今の長様は、守りに入っていると言うか、逃げているという様に感じます」
「逃げてる?」
「はい。予測される不幸、周囲の要求。それらに対処するよう動いているというのは分かります。
ですが、不幸を回避するというだけで「幸せを求める」様には動いていません。私は、そこが逃げているように感じます」
「あー。そっか。言われてみると、そうだね」
誾からは、僕の消極的な行動を注意された。
言われてみると、今の僕はそんな感じがした。現状維持を考えて、変化を求め打って出るような動きをしていない。
結婚だって大きな変化だけど、そこに僕の求めるものは無く、惰性で嫌々するような感じだ。
そこに僕の幸せは無い。
じゃあ、という話だ。
僕は何が欲しくて、どうすれば幸せになれる?
僕は、何を、どうしたい?
家を、思い出を守りたかった。
――それはこれ以上の不幸を忌避したからじゃないか?
オーヴァーランダーを始めた。
――選択肢が、それしかなかっただけだろう?
積極的に人付き合いをしようとしなかったのを改めようとした。
――困難が目の前にある。僕の中に、困難に立ち向かえるだけの強さがあるのか?
思考がマイナスに傾く。
すると、誾が僕の手を取った。
「長様の心の中に、暖かい物は残っていますか?」
あ、と僕の声が漏れた。
思い出は大切なもので、逃げるための場所じゃないけど。
大切な宝物なら、大事にしたっていいじゃないか。
こうやって、誾や他のみんなにも出会えた。
それは、幸せな事じゃないか?
付き合うのが難しい人が多くなったけど、それでも完全に孤立したわけじゃない。
同じような立場のプレイヤー仲間がいるし、お国のために貢献している事実は誇れるだろう。胸を張っていいはずだ。
やろうとしている事に消極的で現状維持だろうと、ただ前を見ているかどうかだけで全てが変わる。
僕の心の持ち様次第じゃないか。
必要だったのは、幸せになりたいと願う事。




