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オーヴァーランダー  作者: 猫の人
終章 アンサー
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ステージ3 ボス戦 決着

 僕が用意したのは、ドライアイスだ。

 最初は煙を使って“蝕”、何も無いところを探そうと思ったけど、煙は上るからね。僕らの視界まで利かなくなる。燻すならともかく、煙では駄目だと思った。

 その点、ドライアイスなら下に向かうので使いやすいというわけだ。


 もしかしたらドライアイスにもある程度は対処してくるかもしれないけど、流動するドライアイスに対応しきれるとは思えない。

 これならきっと上手くいくはずだ。



 前回、あのキメラは僕らを待ち伏せした。

 場所は魔法陣まであと300mぐらい手前。

 なので、安全策としてもう200mのマージンを取り、そこから投げるようにしてドライアイスをバラ撒いた。



 ドライアイスの煙は草のあまり生えていない山肌をゆっくりと降りていき――僕らから見てあと50mのところで変わった動きを見せた。先頭のゴブリンからしたらあと30mである。かなり危険な位置だった。


「攻撃開始!!」


 それを見た僕は率先して手にしていた槍を投げる。

 先端が鉄のそれは、ゴブリン大集落にいる連中から奪った物だ。最近は質が向上しているのでそのまま使えるのが良い。

 槍は≪投擲≫スキルの力もあり、キメラに深く突き刺さった。


 一瞬、ダメージによりキメラの透明化が解除される。

 いくつもの動物を無理矢理つなぎ合わせたようなそれは、4つ足なのに僕よりも高いところに頭がある。もしも2本足で立とうものならその視線は5mぐらいまでいきそうだ。

 肩の辺りに刺さった槍は鉄の部分が完全に見えなくなり、20cmはいっていると思うけど、それでもあの巨体が相手であればそこまで大きなダメージじゃ無いだろう。致命傷にはほど遠い。


 姿が見えたのは一瞬だけ。

 長物の槍であれば敵の何らかのアビリティによる透明化の影響を、その先っぽぐらいは見せてくれるかもと期待していたけど、残念ながら槍は完全に見えなくなってしまった。



 続くみんなの攻撃だけど、これは大盾を構えた先頭のゴブリン以外はほぼ全員が参加した。

 が、みんなは槍ではなく小さめの鉄球や手裏剣など、投擲専用の小物を使っている。あとは風の魔法など。槍は次以降を考えて温存だ。


 リィン、とキメラのいるところから鈴の音がする。


 音の動きからキメラの位置を把握し、みんなで攻撃を続ける。

 ある程度のダメージが無いと透明化が解除されるという事は無いけど、結構なダメージの攻撃が当たれば透明化はほんの、コンマ数秒ぐらいは解除される。

 姿が完全に見えなくなっても鈴の音がキメラのいるところを教えてくれた。


 槍は、猫の首輪だ。

 鈴の音でキメラがいるところを教えてくれるようにする。

 相手の姿を視認できたあとなら、いる場所と音の響きでなんとなく状況がつかめる。

 僕らは相手の背が高い事を利用し、とにかく射撃、魔法でキメラを追い込む。





「長様! 新手です!!」


 1匹目がそろそろ終わるというところで、お替りが来た。

 やっぱりボスは2匹以上いたらしい。

 それを監視に残しておいたゴブリンが発見した。ドライアイスの動きからそれを察知したのだ。


 2匹同時に相手をするのは難しい。

 なので、僕はいつもの切り札を使うように指示をだす。


「催涙弾、撃て(てぇ)ーー!」


 どこかの艦長の真似をしつつ、催涙弾の弾幕を張らせる。

 戦場から敵がいたと思える位置までの距離は僕らから100mほどあったけど、トップスピードに乗ったキメラなら3秒もあれば僕らの誰かを食い殺せただろう。

 しかし警戒は怠っていないし、時間稼ぎ用の策は戦闘が始まったあとにちゃんとやっておいた。


「ギャオォォッ!!??」


 敵発見の報告、僕の迎撃命令。

 それが終わるかどうかと言うところで新手のキメラが悲鳴を上げた。そして何かがぶつかる鈍い音と、固いものが砕ける音も。

 どうやら(・・・・)上手く罠に(・・・・・)かかったようだ(・・・・・・・)


 僕はドライアイスが足下を流れるという事で、いくつか穴を掘らせていた。

 新手のキメラは落とし穴に勢いよく片方の足を突き入れ、走る勢いでその足を折ってしまったというわけだ。そのおかげで姿も視認できた。

 運動エネルギーが大きいほどこの手の罠は良く嵌まるのである。



 更にそこへ催涙弾が投げつけられ、鞍馬の投げる槍も運良く顔面に突き刺さり、新手のキメラは何もできずにすぐに死んだ。


 程なくして1匹目のキメラも1人の犠牲を出してしまったが倒す事に成功し、その後にもいた別のキメラ3匹を屠る事にも成功する。――更に4人の犠牲を出してしまったが。

 合計5匹のキメラの死体を確保しつつ、僕はステージ3をクリアした。





 今回は死者を出したくなかったのに、5人もの犠牲を出してしまった。

 その中には進化したはずの氷刃なども含まれており、かなり痛い出費である。犠牲を出したくなかった僕のプライドも、とても傷ついた。


 体の大きさという基本スペックが違いすぎるので、火熊がもっと大きくなってくれればこの問題は解決するのかなと、キメラ戦は当分やらないと決めておく。

 大きな損害の出るキメラを倒しても、復活コストが釣り合わないのでやる気になれないのだ。

 完全勝利をしてやりたいという思いはあるけど、このままズルズル戦っても犠牲をゼロにできるイメージが無いなら、そんな欲求は封印しておくべきだ。


 今はただ、犠牲を出してしまったとは言えステージクリアを祝うべきだろう。

 僕はその様に考え、日本に戻るのだった。

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