提案
「我々としても、もっと時間をかけて事を進める予定だったんですよ」
顔を合わせ、しばらく雑談をしてから工藤さんは本題に入った。
「計画そのものは最初からあった、という事です。
魔法が世間に広まった時、それに対抗する手段が必要でした。プレイヤーに知恵を借り、人間だけでどうにかする手段も考えられましたが、魔法について知れば知るほど魔法そのものが必要であると、痛感したのです。
ゴブリンを選んだのは数の問題ですね。他のモンスターでは必要数に全く足りない。1万や2万ではなく、政府は100万単位まで数を増やすことを計画しています。
数年かけて徐々に認知させ、国民の理解を得るつもりでした。幸いにもアメリカなどが雰囲気作りをしてくれているので、日本は後追いで何とでもなるという目論見だったのですよ。
あとは戦力として統制するシステムを作り、自衛隊の基地などに配備するところまで行ければ完璧ですね」
最近、自衛官のなり手が少ないのでちょうどいいのですよ。
潰えた計画を語り終えた工藤さんは、力なく笑った。
もともと、僕だけでなく多くのプレイヤーが国防に使われるという予想をしていたので、ゴブリンの処遇自体は特に不思議なことじゃない。所属が自衛隊であることもだ。警視庁かどちらかだろうとみんなで言っていた。
ゴブリンは即戦力として考えれば十分に優秀なのだし、たまに跳ねっかえりが出るけど仲間意識が強いので身内に引き込むのにも向いていると思う。上位者の命令に忠実な面があるんだよね。付け加えると、所属が違えば同族相手でも容赦しないしね。
正直、こっちで死んだらそれまでなので、あまり危険なことをしてほしくないという意識はあるけどね。
そのことに覚悟は決めているし、こっちに来る連中にも言い含めてある。
だから、国の計画通りに事が進むのであれば、僕は文句を言うつもりはなかったんだけどね。
「問題は、人間側にまで“魔法使い”が現れた事です。
これまではモンスターを警戒すればいい、その認識でしたが、そうも言っていられなくなりました。モンスター以上に厄介な人間を取り締まる必要が出てきたのです。
そして人間側の魔法犯罪を取り締まる事は容易ではありません。ゴブリンを使えばいい、そうも言ってられません」
先ほどまでの弱々しい表情は何だったのか。工藤さんは真剣な目をして僕を見る。
「警察、公安、自衛隊。どこもプレイヤーがほぼいない職場です。人間の魔法使いの補充は急務であると言えるでしょう」
僕が文句を言いたいのはこういう話だ。
「新田さん。私たちは、貴方に、公務員になってほしいのです」
「すぐには答えられません。考える時間をください。あと、待遇について、ある程度でも決まったら教えてください」
プレイヤーと公務員。
プレイヤーを続けることが前提の僕は、両立できそうにない組み合わせを選びたくはないんだけどね。
ただ、表立って苦情を言うのもはばかられる。
なので僕は時間稼ぎをすることにした。
日本人らしい玉虫色の回答だ。
何の情報も無しに決められることではないし、そうやって資料を受け取ろうとすれば前向きな姿勢と受け取ってもらえるだろう。
それなら相手も強く言ってはこないはず。強気で押したら逃げられました、は相手も嫌だろうし。
そんな僕の思惑を知ってか、工藤さんはわざとにやりと笑い、こう付け加えた。
「もしも決まったら教えてください。その時は新田さんから派遣していただいたゴブリンを部下に付けますので」




