誾の提案
彼女を作る、と言っても、すぐには動けない。
僕が彼女を作る方法は、基本的にはどこかに所属して、その中で探すという方法だ。出会いを大学などの所属に求めるわけだね。
小阪さんのような件は、僕の中では例外だ。人から告白されたのはアレが初めてだし。
そして今の僕は、無所属のようなもの。
冒険者ギルドに所属してはいるけど、あんまり人と絡まないし。恋人を探す環境ではない。
詰んでいる。
出会いがない。
どうすればいいのか分からない。
一瞬、誾やキズナの事が頭に思い浮かんだけど……無いね。
僕のストライクゾーンはゴブリン系種族ではなく人間なんだし。あからさまなボール球にバットを振ったりしないんだよ。
恋人の件は横に置いて。
魔法スキルに関しては、ネット上の匿名希望として相談を投げかければいいか。
ネット上なら誰かが相手してくれるしね。
しばらくの間、僕は温度の無いやりとりに心を癒やされるのだった。
アタック139回目。
世間がどれだけ混乱していても、物資はちゃんと用意されたよ。
ギルドの職員に感謝。
地球で何が起ころうとも、こっちは完全に平常運転だ。
僕が持ち込む物資に影響が出なければそのままだろう。持ってくる物が無くなると色々困るけど。
現状、難しい戦闘をする場面では、日本製品の装備を身につけるのが一番なんだよ。
「長様、何かありましたか?」
ホームにやってきた僕を出迎えた誾が、不思議そうに首をかしげる。
どうやら僕の顔色は悪いらしい。誾は心配そうに僕を見ている。
「いや、向こうでね――――」
今は話し相手が欲しい、そんな僕は誾に聞き役をお願いする。
都合のいい女扱いのような気もするけど、分かっていても現実から目をそらす。
僕はわりとどうしようもないね、そんな事を自覚しつつも、話す口は止まらない。
そうやって不安をぶちまける僕を、誾は優しい目で見ていた。
「――――だいたい話は分かりました。
私は覚えていませんが、地球ではそんな事になっているのですね」
誾は地球でも魔法が使える事に驚いていて、そうなった事を知らなかったようだ。
前世の知識があると言っても歯抜け状態だし、言ったら拙い記憶は運営に封印されているとか、そういう事もあるかもしれない。どこぞの未来人に課せられた禁則事項みたいに。
聞き終えて物憂げではあるが、言い終えた僕はすっきりした表情でいる。
ネットで心を落ち着かせる事はできたみたいだけど、不安を拭いきれなかったみたいだね。
やっぱり面と向かって不安をぶちまけるのって、僕の精神安定の上では欠かせないみたいだ。他の人は知らないけどね、話し相手は大事だよ。
「長様は、テロリストの件が終わっても家に帰れないかもしれない。それがお辛いのですよね」
誾は僕の中にある不安を形にしていく。
「魔法が使えるというだけで迫害する人は必ず出るでしょう。
そうなると必死で守ってきた家が、帰るべき場所が無くなるかもしれない。
警察は原則「発生した犯罪」への対処しかできませんし、頼りになるとは言いがたいですよね。頼るべき人がいないというのは怖い事です」
そうなんだ。
これまではヤクザっていう一組織を、ほんの少しの人を相手にすれば良かったんだよね。規模は大きいだろうけど、カタチがあって対処できる相手なんだ。
でも、偏見による迫害って、周囲の全てが敵になるんだよ。隣に住んでいる人とかが僕らを人として見ない人殺しとかになっちゃうんだ。ただでさえ僕はヤクザの件で周囲から煙たがられていただろうし。味方というか、ただの隣人としてはもう見れない。
そうなった時にどうやって身を守ればいいのか。いや、あの家に住んでいればきっと僕は僕を守り切れない。安全なホテル暮らしを選んでしまう。
大切なはずの家を見捨てる。
それが怖い。
「更に奥、根っこにあるのは、周辺住民への不信。社会への参加意識の欠如。
信頼が足りていない事でしょう」
ゆっくりと、誾の言葉が身にしみる。
「長様。我らのいずれかを、お側に置きませんか?」
そして解決策が提示された。




