相談相手
僕らでも地球で魔法が使えるようになる。
一見するといい事に見えるかもしれないけど、これ、かなりの大問題だ。
まず、僕はゴブリンを定期的に派遣しているけど、その価値が減ずる事で派遣先が無くなるかもしれない。
派遣する事を前提に向こうの村の規模を拡大しているので、派遣先が無くなるのは、地味に痛い。せっかくの準備が無駄になってしまうし、早い段階で人口飽和が起きてしまう。
計画を見直さないといけないかもしれない。
次に、魔法が使えるのは「プレイヤーだけ」という事だ。
今のところの報告を信じるなら、魔法が使えるのはオーヴァーランダーのプレイヤーで、なおかつ魔法スキルを覚えている者だけに限定される。
プレイヤー自身に大きな価値ができてしまう事で、魔法が使いたい人間が安易にオーヴァーランダーを始めるようになるかもしれない。特に幼い子供のプレイヤー化は避けられないだろう。
下手をすると2年前の再来だ。
大量の死人が出る。
これは2つめの問題の続きだけど、魔法使いであるプレイヤーに対し、排除行為が横行しかねない。
魔法が使えず、魔法使いに挑む気のない人間にしてみれば、魔法が使えるプレイヤーは嫌悪の対象となる。努力すれば自分も、などと考えないのが衆愚という生き物だ。彼らは魔法を使える人間に嫉妬し、排除しようと動く事が予想される。
少なくとも、共存共栄までは少なくない年月を必要とするはずだ。
ゴブリンであれば「異種族だから」で諦めがつくんだけどね。同じ人間である以上はより強い嫉妬のまなざしを向けられると思っていい。
最後に。
魔法が使える事で、魔法を使った犯罪が横行しかねないのが怖い。
現段階で国や警察は「魔法を前提としない犯罪」にしか対応できない。魔法を使った犯罪に無力なのだ。
それに対抗すべくゴブリンを雇用し魔法に適応した社会を作ろうとしている現総理だけど、それだけ強引な手法を採ろうと後手に回ってしまったのだ。
今も魔法犯罪対策となる法整備に向けて動いているけど、あまりにも変化が早すぎる。
社会の混乱は、避けられない。
下手をすると、国が崩壊する。
最悪の事態だ。
僕のような社会に興味の無い奴ですらこの程度の事は思い付くのだ。
実際はもっと大きな影響があるはず、と思う。
僕はあまりの事件に混乱しているけど、とりあえず僕が出せる情報を提供し、少しでも現況の解明に貢献しておいた。
あとはこの件で話がしたいと、プレイヤー仲間、ギルマス、お国の役人さんなどに連絡を入れておく。
正直、この先が全く見えないので相談できる人が欲しい。
こんな大荷物、一人で抱えたくない。
先行き不透明なのは不安なのだ。
何も考えずにプレイヤーでいられれば楽なんだけどね。
なんで、こうも嫌な事ばかり起きるかなぁ。
ギルマスを始め、他の人たちもほとんどがこの件で忙しくなり、僕への対応が後回しにされる事になった。
軽く返事が来ているけど、まともに応対してくれる人がいない。
プレイヤー仲間は一人ぐらい捕まるかなって思っていたんだけど、僕より交友関係が広い人ばかりだからね。最近知り合ったばかりの僕よりも身内優先で、後回しになるのは仕方がないんだけどさ。結構寂しい。
思えば、僕自身が他の人に使う時間を大きく減らしているんだよね。
こっちが隙間時間で軽い応対ばかりしているから、相手も僕に相応の扱いをしてしまうわけだ。
軽い付き合いは弱い絆しか結べない。
いざって時に最初に助けるのは、やっぱり普段から付き合いの深い友人や家族といった、身近な人たちだ。
僕のようなぽっと出では無い。
それが嫌なら、僕はもっと他の人に時間を使うべきだし、一緒にいる時間を増やさないと駄目だ。
今のままではいけない。
目標は、脱・ぼっち。
小阪さんと別れて独り身になってしまったのだから、パートナーぐらいは、また探さないと駄目かもしれない。
ひとりって、寂しいね。




