魔法使いたちの目覚め
蜂退治は信綱らが頑張ればすぐに終わると思う。
本命、まだ姿を見せないボスが気になるぐらいだ。
だから僕は子熊たちの相手をする。
「と言っても、すでに子熊とは言い難いかな!」
最初は抱きかかえられるサイズだった火熊の子供たちだが、油断している間にすぐに大きくなってしまい、僕の計画を狂わせている。
ありがたい事に、僕は好かれ、懐かれているんだけどね?
大きくなっても全力で抱き着いてくるとか、普通に死ねるんですけど。
体力的に、一緒に遊ぶのも厳しいんですけど。
ついでに食費も厳しいんだよね。
3頭でストップさせたけど、これ以上増やすと、村の維持ができないと思う。
火熊の子熊も熊なので、最近は川で魚捕りをして、その魚を食べるように言い含めている。
一回、飼育している猪を襲ったのでしっかり叱って、二度とやらないように注意したんだけどね。うん。こういう事が二度と無いように躾けないとダメなんだよ。教育大事。
あと、それだけでは足りないので固定化猪も増やした。増やさなきゃ、いけなかった。
エンゲル係数が加速度的に増えていく予感……。
生き物を飼うって大変だ。特に大きいのは。
成長する熊に翻弄されつつもアタックを終え、帰ってきた日本ではやる事があんまりない。
買い物などで外に出ることは無いし、食事は基本的にルームサービス。部屋から出る理由が無い。
むしろ外に出る方が問題で、安全のためにも外に出ないで部屋にいるのが正解だ。
テロ関係者はちょっとは捕まったらしいけど、まだ主犯をはじめ、全員が捕まったわけではないので。
そうなると暇で、一人きりという事もあって、ついどうでもいい事をしてしまう。
できる訳もないのに、こっちで魔法を使おうとしたりしてしまうのだ。
「できる訳、無いのにね」
≪火魔法≫による小さな火。それを手にした杖の先端に灯すイメージ。
当たり前だけど、魔法は使えない。
だけど。
だけど、だ。
「お? あれあれ?」
体から魔力が消費される感覚が僕を襲う。
魔法は確かに発動していないけど。
魔力が消費された感覚があって。
その理由に思い至る。
紙を杖の先端に置き、もう一度同じことをする。
すると今度は、紙にほんの少し、黒い焦げが付いた。
「魔法が発動している?」
結局のところ、火とは燃焼という現象により可視化された高温だ。
一定以上の温度があり、可燃物が燃焼を始めれば、それが「燃える」という事で。向こうにいる魔法使いの様に「何もないところに火を付ける方が変」なのだ。
僕は出来てしまった魔法の行使に頭を抱える。
「知らなきゃよかったよ」
新田有仁、(肉体年齢は)22歳。
リアルで魔法使いになったかもしれない。




