別人
なんか、誾が変な顔をしている。
覚悟とかどうとか言ってはいるけど、ものすごくビビっていると言うか、不安に押し潰されそうと言うか。
僕に無駄に心労を駆ける趣味は無いので、さっさと安心させることにした。
「何もしないよ?
前世が誰かはどうでもいいでしょ」
「え?」
「前世の罪は、前世の罪。今に引き継ぐ物じゃないって話さ。
普通に考えなよ。
もう、今の誾は小阪さんとは別人なんだよ」
魂と記憶が連続していようと、小阪さんと誾では肉体どころか種族が違うし、僕の中では別人判定だ。
それに、誾とはこれまで積み重ねてきた思い出と紡いできた絆がある。家族なんだ。家族は見捨てられないよ。
「そもそも、小阪さんとはもう付き合い続けないとは思ったけど、憎いわけでも怒っているわけでもなかったからねぇ。
いちいち気にしないよ」
うん。
だから誾にとってとても重要なこの話は、僕にしてみれば「だから?」としか言いようのない、どうでもいい話だった。
誾を手放すなんてとんでもないんだよ。
「ですが! 今も昔も、私は長様を騙して――」
「そうじゃなくてさ。騙してたんじゃなくて、隠し事があっただけでしょ。
隠し事ぐらい、誰でもあるよ。
ただ、小阪さんの場合はその秘密が「僕の幸せを脅かす種類の話」で、誾の秘密は「もう何も関係ない、終わった話」なんだ。
それとも、誾は日本のヤクザと付き合いがあるの?」
「いえ。ありま、せん」
誾はどうにも消化不良な顔をして、どんな顔をすればいいのか分からずに困惑している。
某有名アニメのセリフを言おうかと思ったけど、それは自重した。笑ってもらうつもりがワロスになってしまう。
なので、頭に手を乗せ撫でてみた。
「ずるいです、長様」
するとなぜか悔しそうな顔をされた。
乙女心は分からないよ。だって、僕は男だからね。
夜も更けてきたので、この話はまた今度、時間があるときに続きをしようという事になった。
念のために未来知識とかは持っていないか聞いてみたけど――それを知る状況になかった、もしくは覚えていませんという回答をもらったよ。
未来の話は教えたくとも知らないから出来ない。
それの意味するところを考えると非常に怖い結論が出そうなんけど、僕は小阪さんにこれ以上関わらないと決めた事もあり、あとは全部人任せだ。
誾の話を聞いても、小阪さんへの感情は何も変わらない。完全に別人なんだ。僕の中では。
「そういえば、なんだけど」
こっちにいるゴブリンだと、リターナーって生まれているの?
いや、ちょっと違う。
ゴブリンってさ、妙に成長が早くて、いろいろ出来るようになるよね。
それが≪転生知識≫の恩恵って話は、無いよね? スキルは表示されない事もあるけど。
「さすがに無いか」
ゴブリンをはじめとしたモンスターが、元人間だとか。
うん、ないない。




