リターナー
うちの子達が、僕に気を遣って虎狩りをしようとしている。
やめさせようかなぁとも思ったけど、自主的な行動だし止めるのは無しにしておいた。
ただ、絶対に無茶はしないようにと釘を刺したけどね。
過保護かな?
さて。
無事に拠点を作り、ボスの姿をドローンで確認し「3m級の蜂の巣があった」と聞いた時は驚いたけど、それはいいとして。
なんか誾が、話があるから時間を作って欲しいというので、ホームに戻ってから会う事にした。
「長様。お時間を取らせて申し訳ありません」
夜。
部屋に誾を招くと、誾は丁寧に頭を下げた。
「いいよ。何か重要な話なんでしょ?」
誾がわざわざ時間が欲しいと言うのは、わりと珍しい。
村にいる時なら基本的に報告の時間は作っているので、話す時間はあるんだよね。
それなのにこうやって時間を欲しがるというのは相応の理由があるんだと思う。
「実は今まで、長様に隠していた事があります。
私の、ゴブリン・リターナーという種族に関してです」
おや。それを、今更?
誾がリターナーになってずいぶん経つ。ステージ1を攻略したあとだから、もう体感で1年以上経っているよ。
誾のスキルに関しては、2つほど分からないものがあったと記憶している。
正確には3つだったけど、≪回復魔法≫がすぐに分かったので、残り2つだ。
だけど、スキルが分かったからと言って、そこまで大仰にする事だろうか? みんなといる時に話しても問題なかったんじゃ?
そんな事とを考えている僕は、何も言わずに誾の言葉を待つ。
「そのうちの1つが――≪転生知識≫です」
「はぁ!?」
僕は思わず声を上げた。
だって、≪転生知識≫だよ!
リインカネーターなら分かるよ。でも、誾はリターナーじゃないか! 転生は関係ないよ!
「そして転生前の名前は――『小阪 祐子』。ですから、リターナーなんですよ」
今度は、絶句した。
さすがに何を言われたのか理解できず、僕の頭は真っ白になった。
「前世を思い出したのは一度死んだ、あの時です。
あの時、死ぬ寸前に前世を思い出しました。ただ、それ以前から前世をぼんやりと感じ取っていたような気がします」
何も言わない僕を前に、誾は喋り続ける。僕の顔を見ていない。
「今日まで黙っていたのは、ここに来る前、長様が前世の私と決別したからです。
覚えている記憶は断片的で、この後どうなったのかはあまり覚えていません。ただ、あちらの私が死んで、今の私がいる。同一時間上に同じ魂があるという時間上の矛盾については私にもどうしてそうなるのか分かりませんが、世界を隔てる事で、何らかの齟齬が発生しているのだと思います。この世界と地球との間に、時間上の連続性はありませんから」
まぁ、そうだよね。
今を生きている誰かの転生体が僕の前にいて、しかもどっちも知った顔とか、さすがに無いよね。
「それともう一つ。お伝えしたい事があります。
推測になりますが、キズナ、彼女も転生者でしょう。ゴブリンの女はゴブリンの男に、オークの女はオークの男に。同種族に欲情するのですが、私も彼女も人間である長様にそういった感情を抱いています。
素直に話す話さない以前に、≪転生知識≫スキルもありませんからちゃんと思い出しているかどうかは分かりませんが、その可能性が高い事だけは気に留めておいて良いかと」
ここまで誾は喋り、ようやく僕の顔を見る。
そして悲しそうに笑った。
「私の事を疎ましく思うようでしたら、そのように言ってください。覚悟は、出来ています」




