無言のサヨナラ
厄介事というのは重なるものだと、僕は思う。
家族を失った時もそうだ。家族を失った、それだけだったら僕は周囲の助けを得て、ゆっくりと立ち直る機会を得ただろう。
だけど現実はヤクザによる恐喝という不幸により、親類や友人と距離を置かざるを得なくなった。
だから僕はオーヴァーランダーでお金を稼ぐ事になったのだ。
そして今回。
ゴブリン関連の問題により、ゴブリンを派遣する事を決めた。
そしてテロリストに命を狙われる事になった。警察が頑張ってくれるので、しばらくの間、身を潜めているだけでいいだろうと思い、僕は冒険者ギルドにお世話になる事にした。
これだけでもかなり厄介な案件だと思う。
でもさ。
このタイミングで別れ話をした元彼女、小阪さんが僕の家を訪ねてくるとは思わなかったなぁ。
しかも家を出る準備をしているから、なんか勘違いしているっぽいよ?
修羅場とか、勘弁してください。
僕にそんな甲斐性は無いです。
と言うかね?
ヤクザ関連で口をつぐんでいた人に、僕をだましていた人に何か言う権利はないと思います。
しばらく缶詰生活になるというので、僕は多くの荷物を車に積んでいた。
もしかすると家を焼かれるかもしれないという恐怖から、家族との思い出の品を残しておくのは危険と判断し、それらもまとめて運ぶ事にしたのだ。
もちろん、家を焼かれないように防衛策を講ずるんだけど、それでも念には念を入れておきたいのだ。
小阪さんが来たのは、僕が荷物を運び終えてちょっと休憩とばかりにドリンクを飲んでいるタイミングだった。
自分の車で僕の家まで来た小阪さんは、僕の姿と引っ越しの車を交互に見ると凄く驚いたような顔をした。
けどすぐに頭を大きく下げる。
「あの、ごめんなさい。
私、その、酷い事をするつもりとか無くて――――」
「復縁する気は無い。僕からはそれだけだよ」
申し訳なさそうに、謝罪しようとする小阪さんの言葉を遮って僕は自分の言葉を端的に告げた。
元々恋愛感情ではなく、信頼関係で恋人関係を作ろうとしていた相手が小阪さんだ。
そこで信頼関係が崩れた場合、愛情が無いのだから付き合いを解消するのは当然だ。
もっと時間をかけて信頼関係を作っていたとしたら、僕はもう少し悩んだだろうし、違う答えを出したかもしれないけど。
それでも、今の僕が出した答えは「別れる」だけ。
「様子を見ながら付き合いを続ける」という日和った選択肢は頭に思い浮かばなかったし、「僕が小阪さんを守る」という考えなど出てきやしない。
それぐらい、あのヤクザと連んでいたというのは酷い裏切りなのだ。
僕に突っぱねられた小阪さんは、目に涙を浮かべて何か言おうとするが、結局何も言えずにその場に崩れ落ちる。
僕はそんな彼女に背を向け、冒険者ギルド所有の、引っ越し用のボックスカーに乗り込むのだった。
運転手が僕に何か言いたげだったけど、それを無視して早く車を出すようにお願いした。
まったく。
これじゃあ僕が悪者みたいじゃないか。




