テロリストの影
アタックから戻ってくると、すぐにスマホが鳴った。
誰からだろうと画面を見れば、ギルマスからの電話だった。
僕はすぐに通話ボタンを押す。
「もしもし?」
「ああ、俺だ。今、大丈夫か?」
簡単に言葉を交わし、互いの近況を報告し合う。
僕の方でやっているゴブリンの派遣は冒険者ギルドの方でも把握しているのだが、電話では誰が盗聴しているか分からないので、直接的な言い方はせずにいる。
こういった暗号めいたやり取りは割と楽しいよ。厨二心が刺激されるね。
そうしてある程度話が進んだところで、ギルマスが本題を切り出す。
「最近のゴブリン関連の話だが、国内でテロを企てている連中がいる。
ゴブリンとその関係者を襲っているらしいから、お前も気を付けろよ。お前は特に有名だからな。
あの手の狂人はどんな邪悪なことでもやるから、警戒し過ぎるって事も無い。護衛を雇うなり一時避難するなり、こっちの人を使うか、施設に来るかした方が良い」
テロリスト。
さすがにそれは、考えていなかった。
ヤクザとやりあっていたけど、あれは土地の奪い合いで、放火をはじめとした最終手段は取られる可能性が低かった。
しかしテロリストなら、平気で放火ぐらいやるだろう。
頭にネジが無い連中に倫理観を期待するのは愚か者のする事だし。
僕は一時避難を選択肢として選び、お世話になることにした。
僕がいなくても火を付けたりする可能性はある。
だけど、いないと分かっていれば放火される可能性はぐっと下がるだろう。たぶん。
僕自身が焼かれて死ぬことも無いからね。
それに、またナイフを刺されるとかは勘弁だよ。
僕だって痛いのは嫌なんだからね。
そうやって引っ越しすることを決めたけど、僕は最後に気になったことを聞くことにした。
「今ネットで確認していますけど、テロリスト云々なんて情報は流れていないんですよね。
もしかして、誰か襲われましたか?」
ギルマスは僕の質問に苦笑いし、「その通りだ」と言う。
「こっちの知り合いで、2人ほどやられた。死んではいない。警察も動き出している。
これが今の話にどう影響するかは未知数だが。ただ、厄介なことになるのだけは間違いない」
真剣な声で、ギルマスが僕に警告をする。
僕は普通に生きていたいだけで、悪い事など何もしていないと言えば何もしていないけど、それでもそんな僕を勝手に恨んで、法も倫理も無視ずる連中がいる。
そういった連中は、こちらが何をしているか関係なく人に迷惑をかける。
本当に、さっさと警察に捕まってほしいものだ。
僕は情報提供と警告と、保護の申し出に感謝を述べてから電話を切る。
そうして引っ越し用の荷づくりに精を出すのだった。




