アメリカ魔法研究事情(裏)
法の名の下、ゴブリンに人権を認める。
そう宣言したアメリカではあるが、これは、見方を変えると別の意味を持つ。
『法が施行されるまで、ゴブリンの人権は認められていない』
今、ゴブリンをモルモットとしても何ら問題は無いと明言したという言い方が出来る。
全ては魔法の為。
これはアメリカに限った話ではなく、命の重さはどこにも無い。それだけの話である。
世界には狂気が満ちていた。
アメリカ某所にある生命工学関連研究施設。表沙汰に出来ない事をする為の、非合法研究施設である。
そこではゴブリンの異種交配や、人間にゴブリンの一部を移植する研究が行われていた。
「魔法因子はまだ特定できないのか?」
研究所に出資している男が研究員達に中間報告を求めるが、研究員達の返答は芳しくない。
「心臓、脳味噌。腕や足を取り替えても駄目。移植率が40%を超えても駄目なんだよなぁ。これ以上拒絶反応をクスリでごまかす事も出来ないし、単純な移植じゃ意味が無いッぽいな。
DNA側からのアプローチはどうよ」
「ゲノム編集では生き物として安定しない。過半数が生まれずに死ぬな。
交配させた方はまだ分からん。ほぼ人間の見た目をした赤ん坊は生まれたが……コレに魔法が使えるかどうかは、な。断言出来ん」
「ゴブリンの経口摂取による人体への影響は、今のところ見つかっていません」
「この方法では出来ない、それを一つ一つ潰している段階です。経過観察も含め、ちゃんとした結果を出すにはもう数年時間がかかります。
それと、このような小規模な施設では出せる結果も出せません。もっと規模を広げない事には、『偶然』を排除できないと進言します」
研究員達はそれぞれ違うアプローチからゴブリンが魔法を使える理由を探しているが、成果を出した者はいない。
互いに顔を見合わせ状況を素人にも分かるレベルに砕いて説明するが、要は全員「何の成果も出していない」と言っているだけだ。
もともと、DNA関連は時間がかかる。
植物ならいざ知らず、動物関連では1月2月で成果を出すものではなく、年単位の経過観察が求められる。
魔法が使えない理由をどこに求めるかにもよるが、『今できない』とはいえ『将来できる』事があり得る為、本当に結果が出ていないかも分からない。
いや、単純に個人の才能に依存する可能性すら考えねばならないので、サンプル数を用意しなければいけない。1000や2000といった「誤差のような少数」ではなく、10万20万といった、「そこそこ信頼できるかもしれないサンプル量」が欲しいのが研究員達の本音であった。
そもそも、一つのアプローチごとに研究所を用意して欲しいのだ。
一つの研究所で複数の研究を出来るほど、裏に割かれているリソースは多くない。
ただ、それが出来ない理由はここにいる誰もが分かっている。
人や資金などの問題であれば、多くの企業から出資させればいい。
単純に、こういった研究は表沙汰に出来ず、イメージが悪すぎる。
裏ではあんな事やこんな事をやっているだろうと思われていても、実際に確かめられていない事はやっていない事で押し通せるし、有名税の一つとして無視できる。
が、合法非合法にかかわらず、実際にやっていると知られてしまえば大衆はこの研究を非難するだろう。
もし成果が出れば、厚顔にもその恩恵を受け取るというのに。
出資者も短期間で結果が出るとは思っていない。
ただ、出ていればいいなという程度のかすかな期待で質問したのと、研究員達から直接の要望を聞くのと、そういった諸々の思惑で報告をさせただけだ。
形だけの報告が終わると、今度は研究費用に関する打ち合わせの為に所長との打ち合わせを行う。
後に残された研究員は、自分たちにかけられる期待の重さを自覚しつつ、ふと他国の状況に思いを馳せた。
「ウチはこんなんだけどさぁ。他所はどうなんだろうね?」




